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特集記事

2020_05_04 | 2020年 5・6月号 イーハトーブ 特集 | | 編集部イーハトーブ

【創刊20周年企画】
「麦チェン」はなぜ江別から広まったのか

『イーハトーヴ』は今年で創刊20周年を迎えました。そこでこの20年の間に北海道の食と農に関わる重要な出来事を振り返り、検証する企画を立ち上げます。今回は平成21年度から始まった「麦チェン」です。

「麦チェン」とは?

北海道では、平成21年度から、食の安全安心、地産地消の観点から、道内で消費、加工される小麦を外国産から道産に転換する「麦チェン」が始まりました。
高品質で収量性が高い新品種の開発、春まき小麦の初冬まき栽培技術の普及や「麦チェン」に賛同してくれる店舗を増やしたり、「麦チェン」ロゴマークもPRのために積極的に使用するなど、生産・技術の面ばかりでなく、流通・消費の面からも取り組みを進めてきました。
しかし、「麦チェン」が提唱される20年以上前から、地元産小麦の地産地消に積極的に取り組んでいた先進地がありました。それが江別市です。

 

「麦チェン」の先進地江別

江別市が「麦チェン」の先進地になれたのには二人の人物の尽力がありました。江別製粉に勤めていた佐久間良博さんと片岡農園の片岡弘正さん(故人)。そして、「ハルユタカ」という品種が大きな役割を果たしました。
「30年ほど前、江別製粉では道産小麦の固有用途の確立と全国への市場拡大、さらには小麦の安定生産を求めて地元ブランドの誕生を模索していました」と佐久間さんは当時を振り返ります。
「そのためにどうしても地元産の小麦が必要だった。目をつけたのが『ハルユタカ』という品種でした」
「ハルユタカ」は当時、国産小麦で唯一、パンを作れる強力粉でした。消費者の間には、国産小麦のパンを食べたいという需要が高まっていましたからブランド化にはうってつけでした。しかし、栽培が難しく、量はそれほど多くとれなかった。特に、雨に弱く病気を発症するため、このことが大きな課題になっていました。

 

佐久間 良博 さん

 

片岡 弘正 さん

 

「初冬まき」栽培の確立へ

その対策として、まず「ペーパーポット移植栽培」を始めました。小麦をお米のように苗床にして植えることにより収穫時期を早くし、雨による被害を少なくする。しかし、ペーパーポットの作成に手間がかかりすぎるため断念せざるを得ませんでした。
そこに登場したのが、片岡弘正さんの「初冬まき」の技術でした。
小麦には、「春まき小麦」と「秋まき小麦」の2種類があります。「春まき小麦」は、春に種まきし、夏に収穫します。「秋まき小麦」は秋に種まきをし、翌夏に収穫します。「ハルユタカ」は春まき小麦でしたが、それを初冬に種まきをし、翌夏に収穫する技術を開発したのです。
片岡さんが夏に収穫した時にこぼれ落ちた種が、そのまま生育、越冬し、りっぱな穂をつけているのを発見したのがきっかけでした。研究を重ね、初冬まきの技術が確立し、他の農家の方々にも広めていきました。

 

「江別麦の会」の発足

「江別を中心とした小麦の生産振興をはかるため、生産・加工・流通・消費・研究などに関わる人たちの交流を深めることを目的に、平成10年に『江別麦の会』を発足し、その後片岡さんは2代目の会長に就かれ、『ハルユタカ』を中心に道産小麦のPR活動に努めました」と佐久間さん。
「江別産小麦の商品開発を後押ししたのが手前味噌になりますが、私が勤めていた江別製粉の『F-Ship』という小さいロットで製粉できる小型製粉プラントの操業でした。これにより少量しか製粉が必要でない企業や地産地消を目指す各生産地の需要に応えることができ、一気に裾野が広がっていきました」
発足年には、道産小麦を使った「全国焼き菓子コンペ」を江別市で開催、その後、「小麦フェスタ」、各地で小麦関連のイベントである「小麦サミット」などを開催し、その活動は現在に至っています。
「江別産小麦は、そうめんやうどん、スイーツやパンとして商品開発が成されていきました。中でも、その浸透に重要な役割を果たしてくれたのが、地元の製麺メーカー㈱菊水でした。江別小麦めんの販売は、江別産小麦の良さを広めると同時に、今も市民に愛されるヒット商品になっています」
農家、製粉会社、製麺メーカー、そして消費者が一体となり、今日の「麦の里えべつ」を作り上げていったのです。

 

ハルユタカの収穫

 

「麦チェン」のその後

「麦チェン」の先進地江別の今はどうなっているのでしょうか。
「『ハルユタカ』の初冬まきがうまくいったのは、そこの気候風土が関連しています。江別の他に栽培を続けているのは、下川町、美深町や滝川市です。雪の下で越冬させなければならないので少雪地域では難しい。また、江別では『ゆめちから』という品種にも力を入れています。その『ゆめちから』のパンを販売する『ゆめちからテラス』は大勢の来場者で賑わっています。今後は『ハルユタカ』『ゆめちから』が並存して、江別産小麦を盛り上げてくれそうです」と「江別麦の会」の白戸麻衣さんは言います。
一方、北海道が提唱した「麦チェン」の現状はどうなのでしょうか。
平成19年度の道産小麦の使用割合は31%でしたが、同21年度の「麦チェン」の提唱を経て、同28年度には50%を達成しました。今後は更なる地産地消の浸透や新しい品種の開発を経て、その割合はますます高くなるはずです。

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