GAPってなんだろう? 食の安全は食に関わるあらゆる産業界に求められている必須条件。農業界でも今、農産物の安全基準というべき「GAP認証」へ向けた動きが活発だ。農業支援を目指す「ゆめ・きた・さぽーと」でもGAPの普及に精力を注ぐ。今回は酪農界では稀だが、果敢にGAPに挑戦した富良野の藤井牧場(藤井雄一郎社長)を取材した。
文/山田勝芳
安全で高品質な生乳生産を目指したい
藤井牧場は創業して116年目の、いわゆる百年農家で現在は5代目・雄一郎社長による牧場経営だ。明治開拓期、小作人から苦節10年で念願の自作農になった藤井家の初代・喜一郎の労苦は計り知れない。「常に開拓者たれ」は藤井家の言い伝えは現代も脈々と流れ随所で発揮される。このことばの裏側には「失敗を恐れるな」がある。歴代、失敗も数々あったが、日本の酪農界の中でも先進的な取り組みを次々とやり遂げた。それが静かなる田園都市・富良野にある藤井牧場だ。
例えば牛の寝床は「サンドベッドシステム」を導入、リラックス効果は抜群で牛の健康維持に役立っている。さらに砂をリサイクルで使用するため、アメリカから「サンドマヌーアリサイクルシステム」を国内初の導入、資源循環型酪農の先端を行く。
「農場HACCP」を2012年に国内認証第1号として取得した。2017年には「JGAP認証」を取得、徹底した衛生管理の下で生乳生産に全社一丸で取り組んでいる。HACCPもGAPも日本の消費者の周知度は極めて低いが、安全思想の先進地ヨーロッパでは消費者の商品の選択基準のひとつとなっている。付加価値が高まってこそ、生産意欲の向上につながるというものだ。
残念だが日本はそこまで到っていない。食の安全性の探求は消費者も生産者も本来同じはずだ。生産者の独りよがりの安全志向よりも、公的機関で安全基準をクリアして認証された方が価値があると藤井社長は考えた。
〈サンドベッドシステム〉
「2030年開拓村」構想日本酪農のモデルたらん
藤井社長は40歳という若さだ。従業員35名、そのうち20代は24名。藤井牧場の躍動感はその若さにある。写真にあるように、牧場のキャッチフレーズは「牛も人もどんどん育てる牧場」。つまり若い従業員から見て、牧場の仕事は生涯にわたってやりがいを持って従事できる、そんな職場でありたいと常々考えている。
そのためGAP認証の取得も安全性の公的認証を受けることばかりが目的ではなく、法律に則って従業員の労働環境を整備することにも重点を置いた。
つまり藤井牧場が描く開拓村は「常に開拓者たれ」の精神性を引き継ぐコミュニティ、従業員村だ。現役世代の若者が生き生き暮らす空間だ。当然保育所もある、いわば従業員にとって理想の郷づくりを思い描く。また、メーカーと協業で消費者が求める商品を研究開発する施設も設置する。
欧米の酪農先進国のように、「牧場で働くことがステータスになる」社会を藤井社長は思い描いている。この先10年は全社一丸となって、構想を固める準備期間だ。
富良野地域には豊かな田園があり、観光資源も豊かで成長の伸びしろも期待できる。豊かな自然環境の下で、開拓村が日本酪農の未来を照らす。
中央に藤井雄一郎社長、右端に藤井睦子常務。左端にゆめ・さぽの大滝昇さん(社労士・JGAP指導員)。
2020_07_08 | 2020年 7・8月号 GAP認証農場を訪ねて イーハトーブ 連載 | GAP認証, ゆめさぽ, 農業