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特集記事

2022_03_13 | 2022年 3・4月号 特集 | , , | 編集部イーハトーブ

「一日一杯の牛乳を飲もう」キャンペーンから見えるもの

学校が冬休みに入る前、生産者団体は「生乳が5千t廃棄になる可能性あり」の危機感を募らせ、鈴木直道知事も「牛乳を飲もう」とメデイアを使って訴えた。本紙も3年ほど前までの20年間、「一日一杯の牛乳が北海道酪農を豊かにする」の本誌オリジナル・フレーズで、ロングラン・キャンペーンを展開してきた。一方で、酪農青年の紹介シリーズも長期連載してきたが、「ミルクランド北海道」のスポンサー降板で、この連載も中止に追い込まれた。TPP発効で始まった国際競争、コロナ禍で生じた国内の需要減、賞味期限切れで処分されるパック詰め牛乳など刻々と情報が届けられ、ぐらつく「一日一杯」の持つ理念。牛乳の取り巻く事情を考えてみた。

一日一杯ではなく一日五杯にならないと

生乳生産量は国内全体で7,434(千t) 、この内道内生産量は4,159(千t)、実に55・9%が道内産(数値は2020年度でホクレン調べ)だ。道内生産分すべて飲用(牛乳)に使われるのなら、「一日一杯の牛乳が北海道酪農を豊かにする」というスローガンも成り立つ。

 

 

しかし、北海道酪農には厳しい現実がある。高い価格で取引される牛乳用は2割にも満たない。8割以上が飲用よりも安価な仕入れの加工用で取引される。他の農畜産物と違い、一物一価とはならない。差額を埋めるのが国からの調整金だ。
冬休みに入る直前、新聞やテレビに「生乳5千t廃棄か」と頻繁にニュースになり、「一日一杯の牛乳を飲もう」のキャンペーンが始まった。

誰かが「毎日牛乳1,000㏄1パックじゃないとダメ」といったが、まさにその通りで「ひとり一日五杯(以上)」ということになる。しかし、5人家族で一日5パックだがこれは無理。「一日五杯」は現実的には実現不可能な絵物語となる。

そうならば北海道の生産者を支える〝実際の消費の仕方”とは何か。北海道酪農に直結する消費拡大策は生乳生産量の8割以上が向けられる〝チーズやバターなど乳製品”なのだから、消費もバター・チーズに向けられるのが合理的。

バターはそんなに頻度よく食卓に並ばない。コンスタントに使う業界といえば、製パンや菓子業界。これらと安定供給に向けて供給体制や価格をじっくり話し合えばよい。
しかし、ここでも大問題が発生する。安価な菓子パンや駄菓子には、バターではなくほとんどが体に悪影響を及ぼす「マーガリン」が使用されている。これをバターに置き換われば消費量は一気に上がる。比重の掛け方は、「牛乳2にチーズ・バターが8」の割合が理想なのだが。

 

実際は外国産を混ぜこぜ道産百%は地元メーカー

毎日の食卓で頻度よく摂れるのはチーズだ。しかし、ここで〝大問題を孕んでいる現実”に直面する。それはスーパーに並んでいる大手乳業メーカーのチーズ製品には、豪州産・ニュージーランド産が国産と混合して商品化していた。しかし、混合率が未表示だから国産比率も道産の使用・未使用もラベルからは不明。

こうなった背景を読み解けば、「TPP発効で関税が下がり、外国産チーズ(豪州・ニュージーランド)を原料として導入しやすくなったのではないか?」と考えられる。「関税がさらに下がればすべて外国産に置き換わる可能性」は十分あると読めるが、はたしてどうか。

 

雪印メグミルクのプロセスチーズ。原材料の原産地表示はすべて外国産で、国内産はゼロ。

 

森永乳業が販売元となったプロセスチーズ。ラベル表示からは原産国も国内産地も判読不能だ。

 

本紙でTPP反対キャンペーンをした時の危惧が現実のものとなる。
結局、100%道産のチーズを探そうと思えばまちの小さな「チーズ工房」や「牧場直営工房」になる。値段は高めだが、北海道酪農の下支えするのなら、こうした消費行動がいい。

『自給率が下がり続ければ…』『気候変動で地球規模の異変があったならば…』、日本列島も飢餓地域にカウントされる時代が来るのかもしれない。

 

実は5千t廃棄で済まず慢性的乳余りが続く事情

今回の生乳5千t廃棄の危機は、コロナ禍で業務用の需要が減ったうえ学校が冬休みに入るからダブルで打撃になるとの訴えだった。春、夏、冬休みは毎年のことで、その対策は取られているはず。問題はコロナ禍で外食や加工分野での需要落ち込みで、こればかりは先々コロナの鎮静化が読めないから推移を見守るしかない。
余剰分に加えて、スーパーに陳列された牛乳の廃棄される問題(約5千t)もある。食品ロスの観点から、流通業界も一考の余地大いにある。人口減少時代に突入しており、陳列棚の欠品も可としなければ、牛乳ロスはなくならない。米などほかの農産物も、生産量を熟考するいい機会ではないだろうか。コロナ禍の需要減もあるが、同時に食品ロスを限りなくゼロに近づけたい。

(文責・山田勝芳)

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