9月はフルーツ狩りシーズン真っ盛り。そこで、今年創業百周年を迎える余市町の中井観光農園を取材しました。北海道の観光果樹園の先駆者であり、道産ワインを支える原料果実の供給元として知る人ぞ知る中井観光農園が、新たなステージに踏み出す計画も紹介します。
大正12年に富山県から余市町に入植した中井家初代は、低地を開拓して畑作に取り組んだそうです。2代にわたり農業の礎を築き上げ、現在の山間地で果樹農業に取り組んだのは3代目でした。
畑作から観光果樹農家へ
その技術を一層高めて守り育てながら、観光果樹園としての展開を強化したのが現代表の4代目になります。
代々受け継がれてきた弛まぬ努力の結果、今でも樹齢30年を超える葡萄が何本もあるといいます。最高のワインを作る土台は、このように何十年にも亘る技術の継承の歴史でもあります。
果樹はとても時間の掛かる農業です。りんごの樹は収穫できるようになるまで4~5年かかりますし、比較的短期間で収穫できると言われる葡萄でも3年は掛かります。その一方、適切な管理を行うことで、10年~20年と実を付けてくれます。そこに高度な技術が必要になります。
当園で果物狩りが体験できるのは、夏のさくらんぼのほか、9月からは「りんご」「ぶどう」「プルーン」「ネクタリン」「プラム」「梨」が旬を迎えます。今年は例年に比べて暑い日が多いのですが、これから余市町では昼夜の寒暖差が大きくなり、果物が甘みを増してくる訳です。
また、当園では、りんごの木のオーナー制度もあります。果物狩りを体験しながらりんごの木を視察して、来年の契約をする楽しみ方もありそうです。
新たなステージへの構想
筆者が当園を最初に取材したのは、2021年11月のことでした。
当時はシードル工房の立ち上げを検討されていました。というのも、当園産のりんごだけを使い、「ドメーヌ タカヒコ」で醸造されたシードルの製造が終了してしまう、というのです。ワイン好きなら誰しも耳にしたことがあるはずの有名ワイナリーが特別に醸造していたシールドを守り育むため、当園自らが醸造に踏み出す構想でした。
かつて、ドメーヌ タカヒコの曽我貴彦氏は、理想とするワイナリーを開業するための第一歩として、当園で就農研修を受けました。それは、当園の歴史や果樹生産に取り組む姿勢に共感したからであり、余市町こそ世界に通用するワイナリー地域になれるという自信があったからでしょう。その後余市町2番目のワイナリーとして2010年にドメーヌ タカヒコを開設し、今に至ります。
決意を固めた2022年初冬右から中井淳氏、曽我貴彦氏、中井瑞葵醸造長、中井典子氏
第3ステージワイナリー開業
2021年の段階では、ワイン造りの話はほとんど聞いていませんでした。しかし、2022年の初冬にお会いした時、5代目の瑞葵氏からワイン造りに挑戦する発言があり、一気に方向性が定まったように思います。まさに機が熟した瞬間でした。この言葉を、中井淳氏も曽我貴彦氏も待っていたのだと思います。その後、瑞葵氏はドメーヌ タカヒコで研修を受けています。かつて自らが研修を受けた農場の5代目を、今度は教える側として受け入れる、技術や情熱を伝承する全国的にも稀なモデルケース。今年収穫する果樹から醸造が開始されます。完成が楽しみで仕方ありません。
(境 毅)
2023_09_13 | 2023年 9・10月号 ゆめさぽ イーハトーブ 連載 食の専門家リレー | 体験, 楽しむ, 育てる, 農園, 食べる