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特集記事

2023_11_04 | 11・12月号 2023年 巻頭記事 | , , , | 編集部イーハトーブ

東川町と北工学園、地域おこし協力隊 制度で福祉人材を育成中!

上川管内東川町が、地元の学校法人・北工学園と協力し、「地域おこし協力隊」を活用した全く新しいやり方で福祉人材を育成している。町外からの移住者が町民の半数を超え、約30年、人口が伸び続けている東川町だからこそ可能な取り組みに、熱い注目が集まっている。
(取材・文/伊藤孝)

在校生の半数超す留学生

1972年に設立認可された学校法人北工学園は、2018年、北海道副知事などを歴任した磯田憲一氏を理事長に迎え、旭川市の医療法人圭泉会の直江寿一郎理事長や東川町の佐藤文泰副町長、建設業協会の藤田裕三会長、東川町内で学生寮を運営する「㈱北の恵」の西川淳史社長らを理事に、さらに今年、企画コーディネーターに前町長の松岡市郎氏を迎え、新体制で再スタートした。
運営の中心となる東川町は、自治体ではわが国初の日本語学校を15年に開校し、以後は町立日本語学校が短期留学生を、北工学園旭川福祉専門学校が長期留学生を受け入れる形となっている。旭川福祉専門学校の学科は「こども学科」「介護福祉科」「医薬福祉学科」「日本語学科」の4つで、特に日本語学科の実績は高評価を得ている。
今年5月1日現在の学生数389名のうち、外国人留学生は245名。その出身国の内訳はタイが112名と半数近く、次いでベトナム、中国、インドネシアが多い。

 

毎年恒例、北工学園旭川福祉専門学校の介護福祉科1年生による旭岳の登山研修。この日のため、1ヵ月前から歩行訓練を行う

 

日本人では支えられなくなった介護福祉の現場

厚労省によると、わが国の介護職員は19年度で約211万人だったが、25年度には約243万人、40年度には約280万人が必要とされていて、実現の可能性は低い。
国は、もはや日本人だけでは介護の現場を維持することは困難と判断し、17年9月、国の外国人在留資格に「介護」を加えた。それを受けて東川町は、外国人を介護福祉士として育成すべく、18年に前町長・松岡氏の立案で「外国人介護福祉人材育成支援協議会」を設立。
2年後、同校から1期生20人、2期生17人、今年3月に3期生24人で計61人が卒業し、介護施設などに就職。現在、介護を目指して勉強中の外国人留学生は52人。この学生に、協議会の正会員である26市町村から、1人2年間で500万円の奨学金が出ることになり、学費、寮費、生活費を月3万円支給することで、アルバイトせずに介護福祉士を目指して勉強できる環境が整った。

 

登録支援機関の資格取得

就職状況を見ても、同校のこども学科には、前年度で7800人以上の求人が来ているが、実際の就職者は36人。介護福祉科でも2200人超の求人に就職者は49人。医薬福祉学科は300人近い求人に就職者は12人しかいないのが実状だ。
一般の留学生が就職する際のビザは技術・人文知識・国際業務だが、高卒では取得できない。日本語学科では、N1~N5の区分がある日本語能力の取得を目指し、、全国平均の倍近い合格率となっているが、国が完全に線引きしているので、日本で猛勉強してN1やN2を取っても、高卒の人は特定技能にならざるを得ない。
そこで、同校は今年、日本で働きたい大卒以外の人たちの就労を支援するため、「登録支援機関」の資格を取得。10月から卒業生が1人、特定技能で働いており、来年以降もこうした分野を広げ、介護でもそうした学生の就労支援を検討中だ。

 

介護実習室や入浴実習室などを備える旭川福祉専門学校第1校舎

 

 

地域おこし協力隊制度による人材育成の試みとは

そして同校が、東川町とともに新たに取り組んでいるのが、「地域おこし協力隊」制度を活用して、学生を育成する試みだ。
これは、まず東川町に地域おこし協力隊として入ってもらい、町内で勉強しながら、地域活動への参加、資格取得などを経て、介護福祉士や保育士として活躍してもらうというもの。加えて、東川町と同校は今年5月、福祉関係の日本人学生を一緒に育成する目的で「未来づくりに関する協定」を結び、来年度から同校の学生を対象に年間120万円の授業料負担をなくす制度を導入する。
地域おこし協力隊員の受入れは、東京など3大都市圏とその周辺県のほか、道内では、政令指定都市の札幌に限られる。人口が増加している東川町は「3大都市圏以外の都市地域」の指定を受けているため、3大都市圏と札幌市からしか迎え入れられないが、逆に大半の地域に行くことが可能だ。

 

介護福祉科の地域支援活動の一環として行われた、トーンチャイム演奏

 

至れり尽くせりの待遇

地域おこし協力隊員の勤務地は、同校および町内福祉・教育施設。雇用期間は任用した日から1年間、最長3年間となる。
募集人数は介護職5名、保育職5名で計10名程度。活動内容は、1~2年目は町の情報発信と町民への福祉増進活動、同校での資格取得。3年目に町内福祉施設への研修派遣となる。任期終了後は、本人の意思を確認し、研修派遣施設などでの活動継続や、福祉現場での活動を引き続き支援する。
待遇は、3年間で上限528万円+住居費が支給され、介護福祉士、保育士などの資格取得のための学費は全額免除となる。社会保険完備のほか、年次有給休暇は20日以内。在学中に普通自動車第一種免許の取得補助も受けられるという、まさに至れり尽くせりの体制が整っている。

 

東川町政に脈々と受け継がれる介護福祉の信念

地方自治体にとって、介護福祉と保育は、そのまま人口減少問題へと直結する。東川町が人材育成に力を入れているのは、地方創生の根幹に地域福祉があり、その担い手を育てることが基礎だという信念があるからだ。
その信念は松岡前町長から現職の菊地伸町長へと、町政に脈々と受け継がれており、東川町以北では介護福祉士・保育士を育成できる唯一の機関である同校とともに歩むことは必然だった。
同校の平戸繁常務理事は、「隊員には、決してこの計画で東川町に残れとは強制しない。2年間、東川町で勉強しつつ地域活動をしてもらうが、資格取得後は本人とも相談の上、行きたいところに行ってもらう。私たちは、介護福祉士・保育士が不足している現状を少しでも打破したい。穿った言い方をさせてもらえば、国が本来すべきだったことを肩代わりしているという思いがある」と話す。
現在、61名の同校卒業生が介護福祉士として、道内各地で活躍している。最近は、日本人学生が介護福祉士や保育士を目指さなくなり、その分、外国人留学生たちが頑張ってくれている。そうした仕組みを支える東川町と学校法人北工学園は、従来の日本社会には存在しなかった新しい可能性を拓きつつある。

 

さまざまな国からやってくる外国人留学生たち。言葉や文化は違っても、日本の福祉を学びたい気持ちは同じだ

 

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