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2020_11_11 | 11・12月号 2020年 特集 | , | 編集部イーハトーブ

【創刊20周年企画】その美味しさは全国へ、「ゆめぴりか」誕生!

「イーハトーヴ」は今年で創刊20周年を迎えました。そこでこの20年の間に北海道の食と農に関わる重要な出来事を振り返り、検証する企画を立ち上げました。2回目の今回は平成19年、比布町の上川農業試験場で誕生した「ゆめぴりか」です。

「ゆめぴりか」誕生までの道のり

江戸時代に道南で米作りが行われた記録がありますが、一般的には北海道で稲作が始まったのは、明治6年に中山久蔵が北広島で「赤毛」の作付けに成功したことが本格的な始まりと言われています。その後、北海道に適した品種改良と栽培技術の向上により、道内で米の生産が拡大され、昭和44年には作付面積がピークとなります。当時の品種改良は、寒地である北海道でいかに安定的に作れるかを、さらに食糧難に対応すべく収穫量の多いものを目標としていました。
しかし、その頃から米の需要が減少し始め、昭和45年からは国による減反政策が実施され、当時の育種目標ゆえに食味が劣っていた北海道米の作付けは制限され、減少していくことになります。

そこで、北海道は昭和55年から食味を向上させ、売れる米作りのための優良米早期開発プロジェクトに取り組みました。府県米との成分の差を遺伝的に縮めるなどの努力の結果、昭和63年に「きらら397」が誕生しました。「きらら397」は当時の北海道米としては食味が良好であったことや、当時の米の品種名としては画期的であったことなど、その実力と話題性で爆発的なヒットを記録しました。その後もさらに食味を向上させた「ほしのゆめ」や「ななつぼし」などを開発し続け、ついに平成19年、比布町にある上川農業試験場で「ゆめぴりか」が誕生するに至ったのです。

 

上川農業試験場

 

「ゆめぴりか」の誕生が全国の生産者に与えた影響

「ゆめぴりか」はその食味の実力もさることながら、その品質を維持すべく行政や生産者団体が適地適作を進め、生産者が厳しい生産基準を守るなど、関係者が一体となった取り組みを進めた結果、全国の消費者に支持されることとなりました。そして、府県米に比べて食味が劣っていた北海道米が、日本穀物検定協会の食味ランク「特A」という客観的な評価を得たことにより、さらに道内外から注目されるようになりました。平成22年に「ななつぼし」が初めて「特A」となり、今では「ゆめぴりか」と「ふっくりんこ」を含めた北海道米3品種が「特A」評価を得ています。これらの結果は、それまで「コシヒカリ」一辺倒であった全国の米生産に風穴を開け、地域特産品種開発競争の先駆けになりました。

 

「ゆめぴりか」以後の後継品種は

「ゆめぴりか」は食味は非常に良好ですが、栽培特性には欠点が少なくありません。広大な北海道では土壌や気象条件などで、食味や品質にバラツキが出ることがありますし、最近ではさらに気象変動が大きくなっています。今後はより一層安定的に生産できる品種が求められています。
また、生産量の大きい北海道には多様なニーズがあり、それぞれの用途に応じた品種開発が求められています。このため、上川農業試験場では、中央農業試験場と分担して「ゆめぴりか」などの良食味後継品種や、労働力不足に対応した省力栽培向け多収品種、もち米、酒米といった加工用途品種などの開発に取り組んでいるとこ用途に応じた品種開発が求められています。このため、上川農業試験場では、中央農業試験場と分担して「ゆめぴりか」などの良食味後継品種や、労働力不足に対応した省力栽培向け多収品種、もち米、酒米といった加工用途品種などの開発に取り組んでいるところです。

 

研究用の水田

 

今後普及が期待される直播米

高齢化と1戸あたり作付面積が拡大傾向にある現在の農業経営では、労働力不足を補うために、省力化栽培が必須となります。苗を作る移植栽培と異なり、直接田んぼに種籾を播く直播栽培は、春作業の省力化が図られる最も有効な方策です。
「直播」向けの品種としては、これまで「大地の星」や「ほしまる」が作付けされてきましたが、上川農業試験場では平成30年に、低温でも出芽、成長に優れている「えみまる」を開発しました。「えみまる」は「ななつぼし」並の良好な食味で、直播栽培のみならず、高密度播種短期育苗といった省力移植栽培での安定生産に寄与するとして大きな期待が寄せられています。今後は、これまでの良食味栽培技術と新しい省力栽培技術をうまく組み合わせて、北海道米に求められている量と質を維持していくことが必要であり、「えみまる」を活用してさらに普及を進めます。

「皆様に北海道米を美味しく食べていただくことが、結果的に品種開発の継続につながりますので、今後も『ゆめぴりか』をはじめとした北海道米を手に取っていただけると研究者としてもうれしい限りです。これからも多くの方々に喜んでいただけるような品種開発を目指して努力していきます」と上川農業試験場水稲グループの研究主幹宗形信也さん。美味しいお米の追求はこれからも続いていきます。

 

研究主幹の宗形信也さん

 

庁舎内の稲の展示

 

●地方独立行政法人北海道立 総合研究機構(道総研) 農業研究本部上川農業試験場

上川郡比布町南1線5号

TEL: 0166・85・2200

 

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