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特集記事

2020_11_11 | 11・12月号 2020年 特集 | | 編集部イーハトーブ

農研機構 北海道農業研究センター 松葉修一水稲育種グループ長に聞きました
直播米「さんさんまる」が農作業の省力化に貢献!

直播(じかまき)は、育苗をせずに種籾を直接田んぼに播くため、省力化に貢献できる栽培方法です。
「さんさんまる」のように食味に優れた品種も開発され、今後は生産が拡大することが期待されています。

期待の直播米「さんさんまる」登場!

 

-新しい直播米「さんさんまる」開発のきっかけは。

 

松葉

2008年の交配から育成が始まり、2018年に品種登録の出願をしましたので、完成まで11年かかりました。
これまでに、「大地の星」や「ほしまる」という直播用品種がありましたが、この「さんさんまる」は「ゆめぴりか」「おぼろづき」タイプの極良食味米で、アミロース含有率が低いので粘りがあり、直播用品種としては初めての極良食味米品種になります。

通常の移植栽培では育苗や苗の運搬作業が必要ですが、直播栽培ではほ場に直接種を播くので、農作業の省力化を図れるという利点があります。これからは農業人口が減って、一戸あたりの面積が増えていく中で、省力化は必ず求められます。そのような現状の中で、直播向けの品種に対する現場の要望は高いです。多収であり、苗立ちが良く、病気にも、倒伏にも強いというのが、直播に求められる特性で、同時に食味の良さについても同様です。そこで、「ゆめぴりか」「おぼろづき」タイプの極良食味米の直播米の開発がスタートしたわけです。
昨年度、「産地品種銘柄」設定の申請・検討を経て、令和2年度産からは「さんさんまる」という品種名を米袋に表示できるようになりました。そして、今年度産から一部のスーパーで販売される予定になっています。

 

北農研 水稲育種グループ長 松葉 修一 氏

 

今後収穫量はどれくらい増えていくのか

 

―今年はどれくらいの収穫量になるのですか。

 

松葉

全体で約150㌶で栽培されています。1㌶あたり5トンの収量があるとして約750トンの収穫量を見込んでいます。最も普及しているのが美唄市です。JAびばいには直播研究会という組織があり、直播の勉強会を積極的に行っています。「さんさんまる」の試験にも前向きに取り組んでいただきました。今年は67㌶で栽培しています。

また、旭川市の市川農場では、ドローンで種まきをしているところをユーチューブにアップしていて、テレビ局の取材も受けています。

ただ、「さんさんまる」にも弱点はあります。割れ籾が「大地の星」や「ほしまる」よりも多く発生しますし、玄米品質も若干落ちます。しかし、それらを補うほど、美味しく、耐冷性にも優れ、病気にも強く、稈長が短いので倒伏にも強い。そして、多収という優れた部分をアピールしていきたいと思います。

 

直播米「えみまる」との比較

 

-昨年から販売されている直播米「えみまる」との比較はいかがですか。

 

松葉

「えみまる」は、道総研の上川農業試験場で平成30年に開発された播種後の苗立ち性に優れた直播用品種です。昨年から本格的に市販されていて、食味は「ななつぼし」並と言われています。粘り気の強弱での評価と思っていますが、開発に携わってきた者としては、やはり食味は「さんさんまる」の方が美味しいと胸を張りたいところですね。

ただ、直播は移植に比べると生育期間が短くなります。完全に体ができていないのに少し無理をして種をつけるという感じでしょうか。一般的に移植と直播の米では、移植の方が美味しい傾向にあると思いますが、「さんさんまる」の登場で直播米でも美味しいというイメージを作りたいです。
また、直播栽培は乾田方式や湛水方式、条播や散播などの播種方式、施肥法や除草などのほ場管理方法などについて、様々なやり方があり、地域や生産者の事情に合わせた直播栽培法の研究の進展にも期待したいです。

 

北海道農業研究センター

 

北海道の米事情はどのように変わっていくのか

 

-今後、「さんさんまる」を生産する農家や収穫量はどれくらい増えていくと考えていますか。

 

松葉

現在、「さんさんまる」の栽培に取り組んでいただいている札幌市の松原米穀さんやJAびばいさんのお話では、毎年50㌶ほどの作付面積の増加を期待しています。しかし、ここで問題になるのが種の生産が追いつくかどうかです。道が定める優良品種になっていないので、道として種の増殖・供給を行う体制にはなっていません。道は道内でどの品種をどれくらい普及させるかについて決定し、その種子の供給について責任を持っています。優良品種でない「さんさんまる」は、北農研センターから少量の種子を購入し自家増殖するか、品種利用の許諾先で種子の在庫があればそこから購入するという方法しかありません。
当センターで開発した極良食味米「ゆきさやか」は、病気に弱いということで、道の優良品種にはなれませんでした。もっとその美味しさを消費者の皆様に堪能してほしいのですが、種の生産に制限があるので大きくは行き渡りませんが、口コミなどで徐々にでも広く流通してくれればと思っています。

 

-最後にこれからの北海道の米事情はどのように変化していきますか。

 

松葉

北海道のお米で今一番求められているのは多収です。一時期の減反の時代には良食味米が求められていましたが、今は収量増が求められています。国内の市場が先細りする中、海外への輸出を始める企業も増えてきました。富裕者層だけでなく、より広い層にも普及させるためには低価格であることが大事です。多収や直播栽培の省力化栽培による低価格化を可能とし、さらには極良食味である「さんさんまる」は、そのような米事情にも貢献できる可能性のある品種だと考えています。

 

-今日はお忙しい中ありがとうございました。

 

●農研機構北海道農業研究センター(北農研)

札幌市豊平区羊ヶ丘1番地

TEL: 011・851・9141

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