ICTを活用し、農業機械に自動化技術やロボット技術を取り入れるスマート農業は、日進月歩で進化を続けています。
積極的な事業展開をしている企業や団体は多く、随時その取り組みを紹介していきます。今回は最大手の農機具メーカー(株)北海道クボタです。
スマート農業は成長の原動力
-御社におけるスマート農業の位置づけと取り扱っているスマート農機を教えてください。
渡邉
現状、北海道農業には大きな課題が横たわっています。農業従事者の減少、作業の省力化、経営規模の拡大などです。これに応えていくのがスマート農業であり、当社にとっても、事業拡大、そして成長の原動力と位置づけています。
特に、北海道クボタにおいては、スマート農業に対応するため、数年前に社内にソリューション推進課を新設し、若い世代に中心的な役割を担ってもらっています。
一方、取り扱っているスマート農機は多岐に及びます。
代表的なのが、アグリロボトラクタ、アグリロボ田植機、アグリロボコンバイン。関連商品として、GPS、ドローン、ほ場水管理システム、そして、KSAS(KUBO
TA Smart Agri System)と呼んでいる営農・サービス支援システムがあります。
特に、GPSは昨年販売台数が1000台を超え、事業拡大の牽引役になりました。今後、農家の方々は、新しいトラクタにGPSを取り付ける傾向がより強くなると思っています。
スマート農業は、北海道に限らず日本の農業が抱えている課題解決に直結する取り組みだと考えています。ある意味、スマート農業は農業改革です。ただ、まだメーカー主体でシステム開発をしているので、現場の声を反映しているのかという問題があります。今後はその部分をきっちり解決していかなければならないと思っています。
渡邉 弥 氏
実証実験で証明されたスマート農業の可能性
-令和元年、令和2年にわたり、御社が中心となって、新十津川町と更別村でスマート農業の実証実験を行いました。どのようなことを行なったのですか。
渡邉
新十津川町の実証農場は町内にある白石農園さんです。白石農園さんは、30㌶規模の水稲作付と施設園芸野菜(トマト)に取り組み、水稲を主とした家族経営の農家です。また、地元の子どもや都市部からの農業体験や高校の修学旅行生の受け入れ事業も実施しています。
そして、実証するスマート農機は、自動運転トラクタ、直進アシスト田植機、ラジコン草刈機、自動給水装置、水田センサー、農業用・センシング用ドローン、自動運転アシストコンバインなどです。
自動運転アシストコンバイン
自動運転トラクタでは、高度なGPSと自動運転技術により、リモコンによる遠隔操作で無人での自動耕起、代掻きを実施。無人機と有人機を同時に使用し効率的な作業を実施します。
直進アシスト田植機では、GPSの位置情報から植え付け位置を補正して、設定した株間で植え付けたり、スリップによる施肥量のばらつきをなくします。
自動アシストコンバインでは、GPSを利用し、自動走行による刈り取り、収穫作業時に10m間隔で収量や食味データを自動取得します。
ラジコン草刈機は、法面を安定走行する機動性を有し、遠隔操作で草刈作業ができます。
自動給水装置は、水田の自動給水停止(開閉)装置です。
水田センサーは、全水田にセンサーを設置し、水位・水温・湿度状況をリアルタイムでスマホなどで確認できます。
農業用ドローンは、1フライトで最大1㌶の散布が可能です。散布装置を交換することで液剤と粒剤が使用できます。
センシング用ドローンは、全ほ場の生育状況を撮影し診断します。生育メッシュマップによるほ場間やほ場内の生育バラツキを可視化し、生育調整や施肥効果を活かした品質向上に貢献します。
農業用ドローン
この2年間のデータからは、まちがいなく農作業の軽労化は図られています。3割ほど農作業の省力化がなされ、増収にも寄与しています。また、白石農園さんの家族の話を聞きますと、「これまでは忙しくて休むことはできなかったが、スマート農業に取り組むことによって、時間的にも余裕ができ、家族全員で余暇を楽しむことができるようになった」と喜びの声をいただいています。
「3K」から「新3K」への脱皮を図る
渡邉
これまで農業は、3Kと言われてきました。「きつい、汚い、危険」でしたが、スマート農業の取り組みによって、「カッコイイ、稼げる、感動する」という新3Kが言われるようになっています。これは今後農家さんにとってはモチベーションを上げる重要なワードになると思っています。
またこの2年間、農業教育にも力を入れました。小学生や中学生を対象に、スマート農機の見学会や学校授業を実施しました。今後においても、農業を学校教育の一環としてカリキュラム化し、子どもに農業の魅力を伝え、これからの新しい農業に関心をもってもらおうと思っています。
一方、更別村は畑作におけるスマート農業の実証実験です。畑作ではいろいろな作物があるので、それぞれに合うシステムの開発をしなければならず、思っていた以上に時間がかかってしまいました。今年1年間延長して続けることになっています。
このような実証実験を続けてきた中で、大きな問題になるのが、行政の規制緩和です。無人トラクタでのほ場間の移動や公道を走るには道路交通法などの規制緩和が必要になります。スマート農機は日進月歩で進化していくのに、行政の規制緩和はなかなか進まない。このギャップはスマート農業の普及にとって本当にもったいないことだと思います。
北海道農業の発展に大きく寄与できる企業に
-スマート農業を含めた御社の今後の展望を教えてください。
渡邉 スマート農機は精密機器ですので、定期的なメンテナンスや研修、アフターサービスが必要です。また、スマート農機の大型化も経営規模の拡大とともに求められるので、整備工場の大型化も必要です。
前者のために、苫小牧に「クボタロジスティックスターミナル苫小牧」を建設中で、9月初旬から稼働します。その横には併設する形で「ビジターセンター」も新設します。ここで農家の方々にスマート農業に関わるソリューションを提案したり、商品の研修会などを行います。
また、このコロナ禍の中で、展示会を開催できない状況が続いているので、1月に「WEB動画展示場」を開設しました。北海道農業に合ったクボタ製品の紹介、実作業の様子を皆さまのお手元に届けます。
ビジターセンターの完成予想図
さらに、10月末には新社屋が完成します。クボタグループには「GMB(グローバルメジャーブランド)2030」という、2030年までに世界中のお客様により信頼されるブランドを目指すという大きなビジョンがあります。その試金石となる市場がここ北海道です。外資とも戦っているわが国で一番大きな市場でもあります。新社屋がそのコントロールタワーになれるよう、これからも北海道農業、日本農業の発展に貢献できる企業でありたいと思っています。
―今日はお忙しい中ありがとうございました。
●㈱北海道クボタ
札幌市西区西町北16丁目1番1号
TEL: 011・661・2491