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特集記事

2020_01_29 | 特集 | , | 編集部イーハトーブ

イーハトーヴ創刊20周年記念てい談 農業と向き合う社会風土を育みたい

メガFT時代、売り場には国内産に混じって外国産(製)商品も目立つようになり、激しく価格競争を演じている。1月1日以降はアメリカ産もTPP並みの店頭価格で並ぶことになる。北海道農業は国内シェアが大きい分、打撃をまともに受けることになる。農業界は先のTPP反対運動時に消費者を味方につけられなかったという苦い経験がある。これからは消費者と生産者が互いに近い関係になって、ともにスクラムを組むことが外国産に勝つ方程式になる。
司会/文 山田 勝芳

発展過程で農業が消える 行政も市民も「仕方ない」

司 会 TPP、日欧EPA、この度の日米の新協定と歯止めなき貿易自由化(メガFT)の時代に突入しました。これが世界の趨勢ならば〝日本だけ特別ルール〞ということにはなりません。国は農業対策を講じていくことは当然ですが、私たち消費者も農業や生産者と今後どう向き合っていくべきか、これが本日のテーマです。
三部さんは札幌市に在職中、農業分野を長らく務められていました。そこで、在職時と退職後を比較して札幌の農業に変化はありますか?

三部 在職中の後半に市の政策として地産地消を推進しましたが札幌の生産者の関心は低く、あまり進展しませんでしたね。私が辞めるころから、辞めた後のここ10年くらいの間に農業者の意識も変わりました。現在残っている農業者は意外と元気で、夢を持ってやろうとしていますね。
最後の6年間は新規就農者の養成に力を入れました。辞めるころには芽が出てきました。札幌市の農家戸数は少ないですが、良心的な農産物を作ろうとする農業者が目立って増えてきましたね。

司会 私の幼少から高校生時代(札幌冬季五輪前)までは農業は身近に見られましたね。伏見あたりの田畑や、幌平橋から向こうの中の島から平岸までりんご園がずっと連なっていました。

三部 明治時代には札幌の農産物(玉ねぎ・りんご)にも輸出するものがあった、まさに攻めの農業の原型みたいなものがあった。
戦後、市街化が進み冬季五輪、100万人都市、政令市と発展していくと札幌市の行政は、札幌の市民を含めて〝農業が消えて行っても仕方ない〞という雰囲気がありました。農業者も「農業をやっていても面白くない」「土地が売れてよかった」と考えるほどモチベーションが下がった時代だったですね。
今は持ち直して、札幌の農業は新しい時代に入ったのかなと思います。

メガFT時代 覚悟して進むしかない

司会 自動車に代表される工業品と農産物は同じ土俵では競争できないというのが本紙の基本的考えではありますが、世界の趨勢は農産物を含めた自由貿易の時代に入りました。東山先生は一連の自由貿易の流れをどう見られていますか?

東山 最初にTPPが俎上に挙げられたのは2010年、民主党の菅首相の時代です。その後政権は変わりましたが2015年には合意し、2016年に協定に署名、16年末には国会を通りました。この間、農業団体を先頭に反対運動がありましたが、大筋合意の後は頭を切り替えて、農業対策の要求へと移っていきました。
2017年のトランプ政権の発足以降、アメリカはTPPから離脱、空中分解すると思っていたが、日本が主導してTPP11をまとめ上げました。TPPと同時進行だったEUとのEPAも合意し、成立した。政府はアメリカにはTPPに戻ってほしいとの期待はあったが結局戻らず、日米の2国間協定になり、年末に国会を通り、1月1日から発効した。いよいよメガFT時代がやって来た。
TPPの時は「農業を犠牲にしてまでやらなくてはならないのか」という議論があった。オバマ政権の真の狙いは中国封じ込めだったから12か国が合意に至ることは宿願であった。しかし、トランプ政権は離脱した。2国間のガチンコ対決に突き進んでいったが、何のための合意か、誰もわからなくなってきた中でメガFT時代が来た。覚悟を決めて行くしかない。

司会 農業団体は新たな貿易交渉が始まっても「政府がしっかり国内農業の対策をしてくれればよい」に作戦変更しました。さりとて生産者と消費者との距離を縮める活動も見聞きしません。 一方、消費者との交流を活発に展開する生産者も随分目立つようになりました。販路の確保に狙いを定め、GAPを取得したり、消費者との交流や販売、通販を積極的に展開する生産者も多い。
札幌消費者協会は先のTPP対応を巡って、意見統一は見送られた経緯があります。当時、何が議論されていたのでしょうか?

千葉 TPPの対応を巡って、賛成、反対が拮抗していて「反対決議」には至りませんでした。

三部 「賛成」の方はどんな点を言っていましたか?

千葉 自由貿易の流れは世界的潮流で、日本もその流れに逆らえない。TPPを農政改革のチャンスと捉えなければ、衰退の一途をたどることになるでしょう。様々な国益を守るためにも交渉に参加して、ルールを作る側になることが必要との意見だったと思います。

三部 当時、政府も言っていましたね「関税に守られる農業から、自立する農業を目指せ」と。

千葉 農産物に付加価値をつけてどんどん売り込む生産者が全国各地にいた。そんな成功事例を挙げて、生産者に努力を促す言い方はたくさんありましたね。

生産者と消費者 距離を縮めた直売所

司会 今、農業界は「消費者と直接接点を持つ」という点で、大きく変わろうとしています。道の駅や農場内に直売所を設けて、自分の作った農産物を並べ、消費者は一つ一つに生産者の名前の入った野菜を手に取り、地域の農業、農業者に近づいた気分に浸っています。もっと発展的な生産者は通信販売で売り込むネットワークをすでに構築しています。

三部 自由化時代に負けない農業は2つあります。ひとつは国際競争に勝つ規模を争う農業。しかし、所得安定政策で守られている農業で、実際はどうなのかの検証は必要です。
もうひとつの農業像はスモールビジネスでも消費者と向き合っていこうとする農業です。札幌に〝さとらんど〞ができた当時(平成7年)、「直売所なんか忙しくてやっていられない」そんな感じでしたが、この20年間で消費者との距離を縮めようとする農家が増えました。農家の女性たちも直売所が出来てからは生き生きしてきた。
規模の大小を問わず、どちらも育てていかなくてはならないが、大規模にやっている農業者もほんの一部だけでも直売所向けの農業をやっていただけたら面白いのかなと思いますね。
生産者の方が自分のところで出来た農産物が、どういう商品になり、どう消費者にわたっているのか、全く見えていない方がたくさんおられる。消費者の反応が伝われば、自身のモチベーションが高まり再生産につながる、これが大事だと思います。

千葉 農業界でも女性たちの活動が目立ってきました。由仁町の子育て世代の「ウィーブ」、子育ての悩みを相談したり、直売所を運営している。北見市瑠辺蘂の森谷裕美さん、白花豆生産で全国的に有名ですがオリパラに農産物を納入する目標を立てJGAPを取得、積極的な農業を展開しています。 三部 十勝の輪作体系を作る小麦、馬鈴薯、甜菜はいずれも国際競争が激しい。

東山 十勝は日本の食料供給基地として、輪作体系を維持して安定供給する責務があります。

三部 外国との競争に負けてしまうと輪作が出来なくなる。それを知っている消費者は意外と少ない。しかし、十勝農業は規模が大きい分、消費者との距離が遠いと感じる。でん原馬鈴薯はどんな使い方をされているか、例えば点滴液に使われていることなど知っている人は少ない。外国との競争になれば単価の問題が浮上してきます。

東山 食料安定法からいっても、食料の安全保障の点からいっても、国内生産がゼロという訳にはいかず、輪作体系からも必要で「要らない」ということにはなってきません。

小豆生産全国一でもあん菓子全国一は夢か

司会 小豆や大豆など北海道は豆類で生産量全国一はたくさんある。しかし、全国を席巻する豆菓子・あん菓子メーカーがありません。

千葉 全国の銘菓でも「北海道産小豆使用」と表示しているお菓子は多いですね。

東山 餡は原料・原産地の表示義務があります。中国から輸入していた加糖餡は「中国産」と表示しなければなりません。餡を使っているメーカーは戦々恐々としていますね。「もっと北海道産を増やしてほしい」と。

司会 北見でオホーツク産小豆の商談会があって、全国のメーカーが参集しました。18年に「オホーツクビーンズファクトリー」を完成させ、管内の豆類を集積させてブランドの確立を図っています。

三部 大豆は緯度が上がるほどイソフラボンなどの機能性成分が多くなるとの研究もあります。

東山 オホーツクでハンドクリームも作っていますよ。

三部 昔「豆クラスタ」という研究会を立ち上げました。消費者、調理師、加工業者、製餡業者など豆にこだわった勉強会をしました。豆の性質や食べ方を覚えると消費量も増えると思いましたね。

千葉 本州で開催される物産展では北海道産豆は良く売れると聞いています。三越の収穫祭でも豆は良く売れています。私もよく豆は調理したり、本州の知人に送ったり重宝している方ですね。 北海道ならではの黒千石、高いけれどおいしいから目に付いたら買いますね(笑)。

東山 黒豆ですがこれから需要は高まりますが、もう少し量的に出回ってもいいと思います。

三部 昔、石狩管内で黒大豆を普及しようとしましたが広がりませんでした。黒大豆は補助金の対象外だったからです。これが量的に伸びない原因だと思います。 札幌のある豆菓子メーカーが当別町の生産者に黒大豆の生産を依頼しましたが、これは対価を払ったから契約栽培が成立しました。 ところで消費者が農家と交流したいと思ったとき、隘路になっているのは何ですか?

千葉 農家側の情報が意外と少ないですね。私自身、農業応援団に入っていた時期があります。その時は北大生に手伝っていただいて子どもたちに農業体験をさせました。農家側が受け入れてくれるのならどんどん接していきたいですね。

司会 北海道経済にとって農業は大黒柱、もっと太い柱に育てたいものです。本日はありがとうございました。

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