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特集記事

2018_07_05 | 2018年 7・8月号 特集 | | 編集部イーハトーブ

北海道大学農学研究院ビークルロボティクス研究室 野口伸教授に聞きました
北海道発ロボットトラクタの未来

農家戸数は減少を続け、さらに高齢化も進み、農業における担い手不足は深刻な状況にあります。
そんな問題の解決策が「スマート農業」ですが、中でも無人で作業を行うロボットトラクタは北海道発の技術として大きな関心を集めています。

ロボットトラクタの研究開発のトップランナーである北海道大学の野口伸教授にその現状と未来を聞きました。

ロボットトラクタの現状

 

ロボットトラクタの普及が加速しています。昨年は準天頂衛星「みちびき」を打ち上げ、作業における誤差も数センチになってきました。ロボットトラクタの現状をお聞かせください。

 

野口

ロボットトラクタが最初に導入されるのは北海道です。北海道は農業が基幹産業で、主力作物の中で生産量が一番のものがたくさんあります。しかし、高齢化が進んでいて、農家戸数が減っています。一方、規模拡大も進んでいて、今では一農家のほ場の平均は、23・8㌶もあります。結果、労働力不足がいわれ、農業機械の自動化やロボット化に対する関心や期待は大きいのです。

国としては、2018年までに自動走行システムを搭載したロボット農機の普及、2020年までに遠隔監視によるロボット農機の実現を目指しています。
現在、オートステアリングシステムは商品化され使われています。さらに今年は、自動走行のトラクタが商品化され、メーカーから販売されます。

 

北海道大学 野口 伸 教授

 

遠隔監視によるロボット農機は、まだ、畑のそばで人が監視しなければならない。しかし、2年後には完全に離れたところから監視できるようになります。拠点となる管制室があり、複数の畑でロボット農機が動いているのを監視できるようになるはずです。
すでに商品化されているオートステアリングシステムでは、有人ですが手放し運転ができる。これは北海道では4000台ほど普及していて、全国でみれば8割ほどを占めています。ただ、高価なのがネックになっています。高価な理由は、GPSです。非常に性能の良いGPSは高い。
その次に来るのが完全無人化です。このような無人の農機というのは世界中では実用化されてはいません。これは国が農業を成長産業化するための施策として、無人農機、ロボット農機の開発に努めていることが大きい。

 

マルチロボットによる協調作業を

 

将来、ロボットトラクタではどこまでのことができるようになるのですか。

 

野口

稲作であれば耕うん、代かき、田植え、収穫。畑作であれば施肥・播種、除草、農薬散布、収穫まで可能です。5㎝以下の誤差で作業走行ができ、人間を超えた作業能力を持っています。
障害物に対する安全性も確保されています。レーザーセンサを装備し、障害物の検出と衝突回避を行います。さらに、まだ、商品化はされてはいませんが、農機が無人でほ場まで行くことができます。自分でほ場に行き、作業をして、自分で帰ってくる。このようなこともできる。これは非常に有望ですが、残念ながら今の道路交通法では無人の公道走行は認められない。

さらに進めているのが、マルチロボットによる協調作業システムです。複数のロボットが協調して作業をする。一台を大きくするという発想ではなくて、協調型にして、ロボットトラクタが作業をする仕組みです。小さいトラクタを複数動かすことで、大きなトラクタの仕事をすることができる。また、夜間の仕事もできる。夜間は普通は運転は危険ですが、無人機ですから安全に作業を進めることができる。オペレータは作業監視役に徹すればいいので、高齢者や女性、未経験者でも安全に作業ができます。

 

ロボットトラクタ4台による協調耕うん作業

 

国の後押しで技術革新を加速

 

野口

昨年の10月、京都で「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」がありましたが、オープニングスピーチで安倍総理が我々のロボットトラクタについて話してくれました。
我々が目指しているのは、複数の小型ロボットトラクタで協調作業をスムーズに行うことです。この技術は日本のみならず欧米、オーストラリア、ブラジルなど大規模農業を実践している国でもニーズがあります。それに大きく寄与するのが日本版GPSの「みちびき」です。これまでの高精度GPSは、いつでもどこでも使用できなかった。しかし、みちびきは常に日本の真上付近にあるので、周りに防風林があっても安定して測位できる。そして、精度が高く、受信機を安価で作ることができます。普通のGPSの受信機では150万~200万円ぐらいかかるところを、10万円程度で作ることができる。現在のトラクタには、エアコン、オーディオ、低振動座席、低騒音キャビンなど、無人になれば必要のないものがついています。そのような装備を止めれば、トラクタ自体の価格も安くなるはずです。そのようなことも我々は今考えています。

 

ロボットトラクタの未来図

 

このような技術を普及させるためには今後どのようなことが必要ですか。

 

野口

一番大切なことは、地域のICTの専門家を育てることです。ICTにしてもロボットにしても、これはツールですから、どのように使うかはそれぞれの地域によって変わってきます。これらをどのように使えば儲かるのか。農業に繋がるのか。このような専門家がアイデアを出す必要があります。また、使う方々のITやロボットに関するリテラシーを高めることも重要です。農家の方々が、このような技術に抵抗なく、導入できるような研修なども必要です。要は人材育成です。そのようなことが今後は非常に重要かと思っています。

 

今日はお忙しい中ありがとうございました。

 

●北海道大学農学研究院ビークルロボティクス研究室

札幌市北区北9条西9丁目

TEL: 011・706・3847

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