岐阜県中津川市の老舗酒蔵「三千櫻酒造」が東川町に移転
三千櫻(みちざくら)酒造。昨年11月、東川町に新しく誕生した酒蔵です。
東川町では、地元のお米と大雪山の伏流水を使い、新たな特産品として日本酒の醸造を計画。町内に公設の酒蔵を立て、運営する酒造会社を全国から公募していました。酒蔵は鉄筋2階建てで、延床面積は約690㎡。建設費は約3億5千万円で、国の交付金などを活用し整備しました。運営する酒造会社は岐阜県中津川市にある老舗の三千櫻酒造に決まり、昨年11月から本格的な醸造を始めています。
三千櫻酒造は1877
年(明治10年)創業の酒蔵です。施設の老朽化や温暖化の影響などで、数年前から涼しく酒造りに適した道内への移転を考えていて、今回の公募に応え、社員全員で移住を決断しました。
「三千櫻酒造は、岐阜県中津川市で家族経営の小規模な酒蔵ながら、1世紀半にわたり、地酒三千櫻をつくり続けてきました。しかし、創業以来使ってきた土蔵も老朽化が激しく、昨今の温暖化の影響で良質なお米の栽培も難しくなってきていました。三千櫻を未来に残すために移転という選択をしました」と代表の山田耕司さん。
代表取締役 社長 山田 耕司 さん
今までとは異なる酒米と水質をどのように克服するのか
酒造りで大切なのが、その原料となる酒米と水ですが、中津川市で使っていたものとは違うため、試行錯誤を繰り返しています。
中津川市で使っていた主な酒米は「愛山(あいやま)」でした。「愛山」は酒米のダイヤモンドと呼ばれています。大粒で心白が大きく、デンプン質が豊富で、酒米の横綱「山田錦」を凌ぐと言われています。
東川町では「彗星」や「きたしずく」を使用しています。
「彗星」は、タンパク含有量が低く、大粒で、収量性が高く、淡麗な味わいのお酒が期待できます。「きたしずく」は、心白発現が良く、収量性が高い。また、耐冷性も高く、安定生産が可能で、雑味が少なく、やわらかい味のお酒が期待できます。
「北海道にも彗星やきたしずくなど良い酒米が誕生していますが、愛山や山田錦のレベルにはまだ達していません。きたしずくでの酒造りを始めて4年ぐらい経つので、ある程度の目途はついています。彗星の酒造りは今年から始めていますが、なかなか難しい。淡麗な味わいのお酒になりすぎている。今後は酒造技術を高める努力と共に、新たな酒米の開発にも期待するところです」
一方、水質も違います。酒造りで大切なのは水の硬度。硬度が高いほど水中のミネラルが多く、酵母が活性化し発酵が進みやすいと言われています。
「中津川の水は硬度8の超軟水でしたが、東川の水は硬度60~80で、中津川の10倍の硬水です。同じ製法ではアルコールが強く出るので、仕込みの配合などを変えていかなければなりません」と山田代表は酒造りの難しさを話します。
道産酒活性化の起爆剤に
現在、道内には三千櫻酒造を含めて、二世古酒造(倶知安町)・小林酒造(栗山町)・男山(旭川市)・碓氷勝三郎商店(根室市)・田中酒造(小樽市)・金滴酒造(新十津川町)・上川大雪酒造緑丘蔵(上川町)・日本清酒(札幌市)・高砂酒造(旭川市)・上川大雪酒造碧雲蔵(帯広市)・国稀酒造(増毛町)・合同酒精(旭川市)。福司酒造(釧路市)・箱館醸蔵(七飯町)と清酒の酒蔵が15あります。
酒蔵
すべての蔵で共通する課題が、清酒の消費低迷です。一番飲まれていた昭和44年には78,376KLが道内で消費され、酒類の中では30%以上を占めていました。今では約20,000KLまで落ち込み、占有率も5%ほどになっています。それでも近年は海外での人気が高まり、和食のお供として、また、インバウンドのお土産としての需要が高まっていました。しかし、昨年からのコロナ禍による影響で、再び厳しい環境に置かれています。そんな中でも、三千櫻酒造の酒蔵を訪れるお客様は後を絶たず、販売も順調と言います。
「いろいろなメディアが取り上げてくれたおかげで、需要に供給が追い付いていない状態で、うれしい悲鳴を上げています。清酒の需要は確かに減っていますが、私たちにできることは良いお酒を愚直に造り続けていくことだけだと思います。また、このような機会をいただき東川町には感謝しかありません。松岡町長の素晴らしいリーダーシップ、職員の皆様の熱心さ、そして、町民の皆様の温かさと自然の素晴らしさに感謝したい」と山田代表。
明治以降、北海道には本州からたくさんの人々が入植し、開拓してきた歴史があります。三千櫻酒造の人々も、令和の開拓者として、確かな一歩を進めていきます。
東川町はこれから、田んぼが美しい季節に移る。
酒米も作付され、この風景の一部に
●三千櫻酒造㈱
上川郡東川町西2号北23番地
TEL: 0166・82・6631
●東川町産業振興課
上川郡東川町東町1丁目16-1
TEL: 0166・82・2111