食の安全は食品に関わるあらゆる産業界に求められる必須条件。農業界でも農畜産物の安全基準ともいうべき「GAP認証」へ向けた動きが活発だ。今回の取材先は新ひだか町三石で黒毛和牛を生産する「株式会社まつもと牧場」(松本尚志代表)。「農場HACCP認証」を先行取得してから「JGAP認証」を取得した。記者は「株式会社ゆめ・きた・さぽーと」の大滝昇社労士(ASIAGAP指導員)と廣田陸奥夫税理士(同)と共に同牧場を取材した。
文/山田勝芳
松本家は稲作に始まり酪農、そして肉牛生産へ
現在の社長は三代目だが、一風変わった社歴を持つ。初代は稲作農業だったが、二代目からは酪農へ大変化した。これだけでも珍しい経歴なのだが現在の三代目から肉牛生産牧場へ舵を切る。
その理由づけがまた笑える。「搾乳作業が苦手だった」とらしからぬ理由だった。
向かって左側が代表・松本尚志さん。中央が大滝昇さん、一番右側が廣田陸奥夫さん
当時、三石町(合併前)やJAが肉牛生産を励行していたこともあり、乳牛と並行して最初の肉牛を入手したのは1994(平成6)年で20頭からスタートした。それから徐々に頭数を増やし、2003(平成15)年に酪農から肉牛へ完全転換した。それから18年経ったが迷いはなく、家族共々肉牛生産まっしぐらだ。
家族共々と表現したのは代表の松本尚志さんと長男(写真中央)は牧場に従事し、次男(写真左側2番目)は精肉部門・加工販売・直営店舗を運営する「株式会社Loving Cows」を担当。飼育頭数280頭うち100頭は繁殖牛。
松本ファミリーの笑顔溢れる団結力が持続化の原動力。
昆布を飼料に混ぜてこぶ黒のブランドで出荷
2009(平成21)年から〝こぶ黒〟として生産を始める。誕生から出荷までの約30か月、牛にとって心地よい環境づくりに徹する。日高は昆布の名産地、昆布を飼料に混ぜ合わせて牛の餌とした。それ以来、自信を持って〝こぶ黒ブランド〟で出荷している。
2017年には「こぶ黒ハンバーグ」は道が主催する〝北のハイグレード食品〟の認定を受けた。ここに至り「こぶ黒ブランド」は確たるポジションを得たといえる。精肉やハンバーグなどの加工品は飲食店やオンラインショップでも大好評だ。
2020(令和2)年に「農場HACCP認証」、そして今年は「JGAP認証」を受けた。食の安全は牧場の一大命題、認証取得は安全のためのパスポートだ。「世間の認識は低いからもっとGAPのPRを」とは松本代表の弁、筆者も取材していて思いは同じだ。