北海道の喫緊の課題で、特効薬のない難問とされている少子高齢化・人口減少だが、ここ数年、じわじわと効果を上げているのが地域おこし協力隊の活躍だ。その顔ぶれは、農業のみならず、運動のプロ、ハンター、料理人と多彩であり、その高いスキルでさまざまな分野を開拓し、住民としてその地に根付き、地域を元気づけてくれている。
「農業をやりたい」という強い意志とともに
下の写真の女性は、沼田町の協力隊員で、観光支援員の高橋芽久さん。令和4年春に着任し、間もなく1年となる。
髙橋さんは札幌で教育関係の職に就いていた人で、栄養士の免許を持ち、趣味はアウトドア系。子どもの自然体験事業を担当していた経験を最大限に活かし、「沼田町まるごと自然体験プロジェクト」事業を中心に、ほたる学習館で飼育されている羊や馬の世話、ほろしんの森の整備、グランピング教室の講師と、縦横無尽の活躍を見せている。
沼田町・ほたる学習館で羊や馬の飼育を手がける観光支援員の高橋芽久さん
下の写真は、農業の担い手育成事業を進めている日高町で、右が協力隊員の活動後、2022年に新規就農した大橋正規さん、左が同年2月から協力隊の農業支援員として、JA門別の研修農場で働き始めた宮本章弘さん。前職はそれぞれ大橋さんが大阪出身のシステムエンジニア、宮本さんが和歌山県出身の運送会社勤務と、出身も職業もバラバラだが、ともに「農業をやりたい」という強い意志を持ち、行動を起こした若者たちだ。
日高町で2022年に新規就農した大橋正規さん(右)、同年2月から農業支援員として働き始めた宮本章弘さん(左)
多彩な活躍をする協力隊
他にも、美唄市が運営する北海道のプロ野球球団「ブラックダイヤモンズ」のトレーナーや運営業務に携わる隊員、足寄町では、名産のチーズ造りや、ブランド化を目指す「スウィーティーアマン」という品種のイチゴ栽培に従事する隊員のほか、卒業後に起業してハンター兼ゲストハウスの経営を手がけている元隊員もいる。
地域おこし協力隊を卒業後、その地域に移住・定住して活性化に努める隊員は数多い。ミツバチに情熱を捧げてニュージーランドで修業し、豊浦町で養蜂業を起業した隊員や、厚真町で林業によって起業した隊員、鹿部町、ニセコ町、安平町、下川町、三笠市などでは、前職や他の修業先での特技を活かしたさまざまな形態のカフェを開店、もしくは開店準備に入っている隊員たちがいる。
また、町民のコミュニケーションなどの目的で作られたカフェや、最初から起業するための修業の場として設定されたカフェなどもあり、いずれも隊員の力で運営され、地元町民との交流の場として人気を集めている。
人気や知名度で生じる応募の地域差
コロナ禍を契機として、従来の働き方を見直す日本人が増え、中でも若者の意識は劇的な変化を遂げた。都会志向からの脱却、1次産業への憧憬と回帰などから、農業や畜産業、酒類の醸造、大自然の中での飲食店や宿の経営など、知識とスキルを携えた若者たちが続々と参入し、新しい地平を切り拓いている。
とはいえ、課題もある。
協力隊募集には、自治体が定めた活動内容に合った人材を求めるケースと、その人材が持つ技能に即した事業で募集をかけるケースがあり、後者が応募を集めるのに有利なことは自明の理だ。募集人員が集まらない、移住・定住に結びつかない、そういった難問に頭を抱えている自治体は数多い。
また、地域にはどうしても人気や知名度で差が生じ、それが募集のネックにもなり得る。そうした地域差のハンディキャップは、やはりそれぞれの地域の魅力を積極的かつ効果的に発信することで解消するしかない。
道内の各市町村には、未だ知られていない特色と魅力が数多くあり、隊員たちのSNSによる情報発信には目を見張るものがある。自治体広報ができることも、まだまだあるのではないだろうか。