9~10月号の本コーナーに登場いただいたファームデザインズの海野一葉社長から、今まで出会った経営者で一番面白い方と紹介いただいたのが、今回登場される岩松ファーム代表岩松邦英氏。道東の浜中町で酪農家兼ハンター3代目として伝統を受け継ぎ、それぞれの分野を4代目へ継ぐ準備も進めている岩松家を取材しました。
筆者が最初に岩松代表と出会ったのは4年前になります。東日本大震災で知名度を高めた気仙沼の世界的デニムメーカー・オイカワデニムとの共同プロジェクトを立ち上げた頃のことです。その後、実を結び、岩松代表が獲ったエゾシカの毛と皮を採り入れたスタジャンが完成して、大好評を博しています。
岩松ファームには、オイカワデニムの及川代表をはじめ道内外から様々な人たちが集まってきます。音楽家やアーティスト、本州の地方議員や起業家など実に多彩です。その秘訣を探るため、改めてお話しを伺いました。
全国から多様な人が集う牧場
平成27年に株式会社アウトドアアシスト岩松を設立し、自らハンターとして活動しつつ、道内外のハンターを浜中町に招き、狩猟ガイドを行ってきました。そのプロセスで、酪農だけでは得難い多様な人達と深く接し、さらに、そういった方々を楽しませる「もてなしの心」が磨かれたようです。人懐っこくて包容力のある人柄が育まれたように思えます。
左から 岩松邦英代表、明美さん(妻)竜世さん(長男)、真世さん美久さん(次男夫婦)
木村拓哉さんが「人生最高レストラン」で紹介
このように多様な人との接点が切欠となり、岩松ファームの名を全国区に広げる出来事が起きました。2019年3月にテレビ放送された「人生最高レストラン」で、タレントの木村拓哉さんが惚れ込み、人生最高の一品として岩松代表が獲ったエゾシカ肉を指名したのです。
美味しいエゾシカ肉とは?
ここでひとつ疑問が湧いてきました。美味しいエゾシカ肉とは、どのようなものでしょう?
まずは季節差があるか岩松代表に質問しました。これに対して、初秋から発情が始まるまでの間が一番美味しいですが、極端な差ではないようです。季節差よりも、雌や若い雄は繊維質が細かくてクセが無く、美味しいといいます。
それ以上に重要なことは、エゾシカが恐怖を感じる前に首から上を一撃で仕留めて、短時間で血を抜き、冷却する一連の流れだといいます。これは、祖父から受け継いだ技を元に30年磨きを掛けてきた技術の賜物です。
さらに、木村拓哉さんが人生最高と評するほどの違いがどこにあるのか探るため、実際に狩猟するエリアに同行させてもらいました。すると、あることに気付きました。
太平洋岸に位置する浜中町は春から夏にかけて濃霧が発生しやすい地域です。その中でも岩松代表の狩猟エリアは海に近く、豊かな太平洋のミネラルをたくさん吸収した草木を食べています。これがプラスアルファになっているのかもしれません。
酪農とハンターの両輪・次代へ
岩松代表は長い間、経済動物といわれる乳牛と、害獣とされるエゾシカ等の両方と常に向き合ってきました。生命に対する姿勢や世界観に独特の温かさが感じられます。これが、多様な人々が集う一番の理由だと思いました。
ハンター業は長男の竜世氏が継承することになり、令和4年に狩猟免許を取得して活動を開始しました。
酪農業は次男の真世氏が継承しつつあります。令和4年には美久さんと結婚して、ふたりで頑張っています。
奥様の明美さんは浜中町に人が集うシェアスペースを運営しており、長女の優さんは三笠高校を卒業して本州で食関連の仕事に就いています。
魅力的な岩松家の続編は別の機会に取り上げるとして、まずは是非、岩松ファームの一品をご賞味頂けると幸いです。
(境 毅)
●岩松ファーム
代表 岩松 邦英
厚岸郡浜中町姉別北116
岩松ファームホームページ エゾシカ肉加工品販売中