最近「ホタテを食べよう」とあらゆるメディアが動員され、殊更に力を入れた消費推進キャンペーンが目立つ。政府機関をはじめ道庁や札幌市の職員食堂にはホタテを使ったメニューが並ぶ。庁外からも大勢の人が駆け付け大変な混みようだ。
スーパーの生鮮売り場もしかり、さらにTVのホタテを使った料理特番まで登場。まさに各局総出で、かつ道民総ぐるみの消費拡大運動だ。筆者自身はもともとホタテの貝柱は大好物で、消費拡大策に異論はない。
「ホタテを食べよう」キャンペーンは、産地経済や生産者個々の生活を考えればそれはそれでいいのだが、「牛乳を飲もう」を考えると、ちょっと引っかかる点がある。 牛乳を飲んで応援の時と比べて両者の扱い方に大きな差があると感じた。複数の知人たちに聞いてみても、この「差」を感じ取っていた。差の起因とは、ずばり〝国策〟の温度差にある。
中国政府による、日本産海産物の輸入禁止は国策「処理水の海洋放出」に起因する。日本政府の威信にかけて、国内の水産物を風評被害から守らなければならない、という論法になる。
国内の小売り段階では直接の風評被害は出ておらず、貿易相手国では目下のところ中国の輸入禁止措置(ロシアと北朝鮮も同調しているが)、日本の漁業者や水産会社が困らないように万全の手を打つ、これが我が国の対応策だ。具体的には輸出が滞ったホタテなどの買い上げや、消費拡大につながる支援策、中国に代わる新規市場開拓のための商談会開催などがそれにあたる。
因みに、2022年度の北海道産水産物の中国向け輸出額は532億円、このうちホタテは448億円で過去最高だった。448億円の市場探しは多難だ。対中国に偏重してきた分、方向転換も簡単ではない。それで少しでも国内消費でカバーしようと、一連のキャンペーンに力が注がれる。
一方、牛乳はどうか。酪農の経営環境の厳しさは少しも変化していないのだが、牛乳の消費拡大キャンペーンを打つ頻度が目立たなくなった。
円安はますます加速しているし、輸入飼料は高騰のままだし、燃料費は政府の財政出動があるとて元の価格には戻らない。状況変化といえば乳価が上がったことぐらい。
乳牛の頭数は減らして減量経営に舵を切った。国の畜産クラスター推奨で拡大路線を歩んでいたメガファームは軒並み失速したのだが、国の強力な援護は無きに等しい。「脱脂粉乳もバターも国が無制限で買い上げる」といえば、乳業大手もフル稼働できたし、生乳廃棄もせずに済んだものを。ホタテと牛乳の温度差は本来可笑しい。
(山田)