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特集記事

2024_07_05 | 2024年 7・8月号 特集 | , , , | 編集部イーハトーブ

みんなで使えます 森林環境税
【北海道森林組合連合会 有末 道弘 代表理事会長】

今年6月から徴収が始まった森林環境税。CO2を削減するため、森林環境を守るために絶対不可欠な税金なのですが、評判は今ひとつ。巷からは「そんなに集めてどうするの?」「森林なんかほとんどない大都市には関係ないのでは?」といった声が漏れ聞こえてきます。そういった疑問に、森林環境と林業のプロ、北海道森林組合連合会の有末道弘代表理事会長に訊いてみました。

環境の激変を抑えるため

―今年度から徴収がスタートした森林環境税について教えてください。

根幹にあるのは、国が2050年までに脱炭素社会を実現するということです。国際的な枠組みの中で、地球温暖化という環境の激変を少しでも抑えるため、CO2を吸収する森林を作ることに力を入れていこうという形で、ここ4年ほどは、木を植えたり草刈りをしたりする森林整備予算は増え続けていて、減ったことがありません。

森林環境税は、各市町村が各自の采配で、この予算は林道整備に使おうとか、あるいは遅れている間伐作業に力を入れようとか、あるいは小学校や中学校の本棚や備品など、木を利用した予算の使い方をしていこうとか、各市町村が自分たちのまちのために使えるお金なんです。

つまり、必ずしも森林に予算を投じるのではないわけです。たとえば林業に携わる人を育成する、小学校の子どもたちに林業を見て知ってもらう、各市町村が独自に考えて、そうしたことに使える予算が森林環境税なんです。

 

木は伐ったら必ず植える

―森林環境税の使い方を誤解している人も多いようですね。

われわれ林業に携わる者は、木を伐ったら必ず植えます。木は育つのに40年、50年とかかりますが、その間ずっとCO2を吸収してくれます。ある程度まで大きく生育すると吸収がほぼ止まってしまうので、伐って新しい苗木を植える。それが循環なんです。

木にはフィトンチッドという香り成分が含まれていて、人の神経を鎮め、気持ちを穏やかにしてくれる働きがあります。だから幼稚園や学校など、子供たちが集い学ぶ場所にはなるべく木を使うのが望ましいんです。

木を燃やしてしまうと、せっかく固定してくれた二酸化炭素を全部また出してしまいます。そういった建物にどんどん使うことは、二酸化炭素を“固定している”と表現できるわけです。

ただ、それには計画段階から何年もかかるし、予算を貯めておかなければならない。国としても、森林環境税を貯めておくより少しでも使い続けてほしいのでしょうが、人口比率がありますから、どうしても札幌市のように人が多い市に多く下りることになります。

公園に木のベンチを作ったとか、すべて目に見えやすい形であればいいのですが、森林環境税を使って山奥にやっと林道を作っても、一般の人が見に来ることはまずありません。やはり何かの機会があるごとに、税金を納めている人たちに「森林環境税はこういう使い方をしています」と理解してもらえるよう話していかなければならないと考えています。

 

北海道森林組合連合会会長 有末 道弘 さん

 

多すぎる所有者不明山林

―所有者不明の森林がすごく多いこともあまり知られていませんね。

昭和40年代ぐらいに、現地を確認せずに土地を売る原野商法というものがありました。新幹線が通れば高騰するなどと言われて買った土地が、50年以上経って所有者が亡くなり、土地を複数の子どもたちが分割相続し、そのまま放置する。北海道には、こうした山林があまりにも多いんです。

私はようてい森林組合に在籍していますが、羊蹄山周辺の山林も、本当に所有が細分化されてしまっています。観光地は特にひどく、近隣ですとニセコや倶知安もかなり細分化されています。
森林組合の組合員は、自分の山林であれば整備できますが、所有者不明の山林では手の出しようがない。ましてや公共予算を、誰のものかもわからない山林の整備に使うわけにはいかないのです。

この現状を何とかしようと、私も国会議員に陳情し続け、ようやく今年4月に民法が変わりました。山林などを相続した場合の登記が義務化され、3年以内に手続きしないと10万円以下の過料対象となります。しかし、いくら登記が義務付けられても、本人が届け出なければ意味がなく、歯がゆいところです。

 

林業機械化の最大の課題は「植える」作業

―機械化が進む林業でも、他の産業と同じく働き手が不足していますか。

木を伐る作業では、ハーベスタという機械で木を掴んで伐って倒して枝まで掃うことができます。それを積み込んで工場に運ぶ一連の流れも、機械化が進んできています。

ですが、機械化で一番の課題は「植える」作業なんです。山というのは苗木を植える場所が1ヵ所ごとに条件が全然違います。まず、木を伐ると根元の株が残り、それが邪魔になって一定の間隔で苗木を植えていくことができません。

株を細かく砕いて取り除く作業を「地ごしらえ」というのですが、専用の機械を使っても経費や時間などのコストがかかります。それを何ヘクタールもの面積で1本ずつ取り除くとなると大変です。

大量の雑草も刈らなければならず、リモコン操作の草刈り機も、やはり株が邪魔になってなかなか使えない。夏の暑い時期に行う草刈りは大変な重労働になります。だから若い人たちが入ってこない。林業が本当に遅れている部分ですね。

でも明るい要素もあります。旭川に、2年間学んで資格を取れる林業専門学校「道立北の森づくり専門学院」ができました。実は林業をするにも様々な資格が必要で、たとえば草刈り機やチェーンソー、ハーベスタを使うにも資格が必要なので、同校には大いに期待しています。

また、外国人の特定技能制度にも、今年から林業や木材製造業が適用されることになりました。今までは技能実習で1~2年しか日本にいられなかったのが、特定技能で研修を受けて資格を取れば、5年間は日本にいられますので、一つの前進だと思っています。

 

―本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。

2024_07_05 | 2024年 7・8月号 特集 | , , ,