IHATOV|イーハトーヴWEB北海道|北海道のフリーペーパー

IHATOV|イーハトーヴWEB北海道|北海道のフリーペーパー
  • 紙面版を見る

特集記事

2024_11_16 | 11・12月号 2024年 特集 | , | 編集部イーハトーブ

【どう使われている?】森林環境税

森林環境を守り、CO2を削減して地球温暖化を防ぐという大きな目的で、今年から徴収が始まった森林環境税。今回は、実際に道内各地で森林整備を行っている森林組合の組合長さんに、各地区によって事情が全く違う森林整備の実態、そして森林環境税が各自治体によってどう使われているかなど、貴重なお話を訊いてみました。

北空知森林組合 竹林 均 代表理事組合長

当組合のエリア北空知圏1市6町では、それぞれ人口も森林の面積や山の状況が全く違いますし、どのまちがどのような形で森林環境税を使うのかをそれぞれ検討して使います。
全体としては、山づくり、木材利用、木を通じた教育などが多いですが、後は各自治体に考えていただく。でも、われわれも行政と連携しながら森林整備のお手伝いをさせていただいていますので、要望に応じて、われわれがしっかり育ててきた山を豊かにしていくという意図も含めて、いろいろな提案をさせていただいています。最終的には各自治体がどういった形で林務行政を推進するかを予算化し、議会に提案し、使い道を決めます。

深川市でいえば、昨年、市役所を新築した際、ロビーや議場に「深川市の木」であるシラカバを使っていろいろな内装を施しました。地元の一己小学校で4年生を対象に、市有林で枝打ち(植林した木の枝を付け根から切ること)を体験してもらったのもその一つです。
森林環境税は、山に使われなければ納税者の理解は全く得られません。山の緑を育むために活用されることを望みます。具体的には、植栽や下刈り、間伐などの地球温暖化防止を進める事業や、林道の整備など山の豊かさにつながる事業の充実が図られればと希望します。微力ではありますが、山に関することは気軽に相談してほしい。所有者不明の山林をどうしたらいいかといった問題を解決するために森林組合がどう力をつけていくか、何をすべきか、ということで森林環境税を使う道もあると私は思っています。

 

北空知森林組合

 

そらち森林組合 大窪 敏文 代表理事組合長

当組合のエリアは滝川、砂川、歌志内、美唄、岩見沢、三笠の6市、それに新十津川、浦臼、月形、奈井江、上砂川の5町と非常に広いです。
国や道から山の仕事の補助金制度もありますが、原則的にここに森林環境税は上乗せされません。荒れている山、全く手を加えていない山を整備し管理していく財源として使う道もあると思いますが、6市5町の各自治体で下りる額はまちまちです。というのも、面積割と人口割で変わってくるからです。山の面積が少ない、人口の少ない市町村では、下りる額も少ない。だからそうした自治体では、基金に積んでおくところもあります。
ただ、今始まっているのは「山の調査をしたい」ということです。もちろん各自治体で自分の地区の山の面積などは把握していますが、実際にその山が今、どういう状態なのかはきちんと調べてみなければ分からないので、そこに財源を使うべきということで、うちの組合に調査依頼が多く来ているというのが今の段階ですね。
親の代、先祖の代から山は引き継いで所有はしていても、それがどのように使われ、管理されているか分からない人は、その山のある地区の森林組合に相談してほしいですね。それが私たちの仕事でもあります。

 

そらち森林組合

 

なかそらち森林組合 横田 五郎 代表理事組合長

当組合のエリアは芦別市、赤平市です。どちらの市も、今のところ森林環境税関連の業務は調査段階です。当初の目的は、所有者不在の山林を事業ができるように何とかしようということでした。エリアの面積はそれほど広くないですが、炭鉱が所有していた森林では、閉山後に所有者の企業から赤平市に1千haほどが譲渡されました。
森林環境税はすばらしいものですが、いざ使おうとするとなかなか大変です。たとえば、植林に使えばいいのではと思われるかもしれませんが、植林事業は96%ぐらいが補助されるため、環境税は使えません。
山の仕事をするには林道が絶対に必要ですが、舗装しないため、雨で湿ると車で何度も往復しただけで凹みますし、大雨が降っただけで路肩が崩れ、車が通れなくなります。木が倒れて林道が塞がれれば、どけるのは人力では無理です。山の中でタイヤが脱輪すると非常に危険ですし、車を元に戻すのも大変です。おまけに林道には草などがどんどん伸びてきますので、それも刈らなければならず、すべて大変なお金と労力がかかります。
森林環境税は、会計監査がすごく厳しく、整備事業を始めるのも簡単ではありません。ですから、まずは徹底して調査をしなければならないのです。

 

体力も時間もかかる森林整備の下刈り作業

 

当麻町森林組合 中瀬 亘 代表理事組合長

森林環境税の前身、森林贈与税のころから、当麻町では町行政とともに森林づくりに最大限活用していることをアピールしてきました。
森林環境税は、人口や森林面積など、そのまちの環境によって使われ方が全く違います。当麻町では、町の行政が、私ども森林組合と協議して、自分たちの町の木をどう使っていくかなどを決めていきます。町役場、公民館、公営住宅にもふんだんに木材を使っていますし、来年は幼稚園にも使用する予定です。
当麻町は、地元の木を有効利用する好例となっていて、他町村から議会議員が見学に来るほどです。林業のまちとして、町内の子どもたちへの木育も積極的に実施しています。障がい者施設、木工所「くるみなの木遊館」と連携して、生涯学習フェスティバルなどで木のおもちゃ作りなどを実施しています。
もともと当麻町には国有林は1ヘクタールもない珍しいまちで、道有林や町有林が殆どでした。町を挙げて十数年前から、当麻町内に町産木材を使って住宅を建てた場合、木材代金(上限250万円)を町が負担する制度が始まりました。また、この制度に伴い、昨年から取り組んでいる森林認証材を使った住宅の認定取得に掛かる一部費用には森林環境贈与税が使われています。今年は十数戸建てられる見込みとなっていますが、多い年は三十戸近くまでなったこともあります。
当組合は1941年に設立し、6年後に自前の製材工場を開設。その当時から町の木を伐って販売して活用していました。
2014年には大型機械を導入し、大きな丸太も扱えるようになりました。組合で伐採した木材だけでなく、他の地域からも受注して安定的に加工しています。当時は4千~5千あった製材工場も、今では10分の1に減ってしまい、道内でも工場を持っている森林組合は10組合ほどです。
全国の再造林率は5割ほどといわれる中、北海道は87%とかなり高いほうですが、当麻町はほぼ100%です。

林業は、長期的なサイクルで「伐ったら植えて育て、伐期が来たら伐ってまた植える」、「生産した木材は有効に利用する」、この循環を繰り返し後世にしっかり繋いでいかなければなりません。森林を育てるには長い年月と費用が掛かりますが、当麻町では私有林の値踏み、下刈、枝打、除伐などといった保育事業に森林環境譲与税が有効に使われています。
当組合は、職員が森林整備課、加工販売課、総務課と3課で48人います。いわば企業であり総合商社のような存在ですが、特別なことをしているわけではなく、協同組合としての使命を守っているだけだと自負しています。

 

当麻町森林組合の製材工場

 

札幌市森林組合 吉田 嗣博 代表理事組合長

札幌市では昨年、森林環境譲与税として約2億7千万円が使われ、森林整備と木材使用に半分ずつ使われました。
森林組合の事務所がある白旗山都市環境林は市有林で、市の税金で私どもが間伐と整備を行ってきましたが、民有林は昭和の原野商法などで所有者不明のところが多く、かなり荒れています。つまり森林というよりも土地問題なんです。地主を突き止めるだけでも一苦労させられ、整備はなかなか進みません。
現状として、札幌の民有林の中で人工林が占める割合は相当減っています。木を伐ったあとで植林していませんから、天然林が増えています。天然林というと聞こえがいいですが、要するに放置しているだけなんです。
ですから、人工林を持っている人であれば森林環境税で間伐などの森林整備をする意識を持っているでしょうが、天然林の所有者はほぼ無関心です。天然林でも大きな木を伐ればお金には換えられますが、人工林が50年ほどで伐れるところを、天然林は成長速度がかなり遅いので、ほぼ倍の年数がかかります。
国や道はCO2削減を大前提としていますが、実は人工林のほうが圧倒的にCO2を吸収してくれるんです。それはつまり“早く成長する”ということなんです。逆にいうと、CO2を早く大量に吸収するから、早く太く育つわけです。人工林に針葉樹が多いのも同じ理由です。広葉樹は曲がりが多くて木材にしづらく、成長が遅い。だから林業用の機械も針葉樹用のものが多いんです。
地球温暖化を考える上で、今までのように針葉樹が育ってくれるかどうかも考えるべきです。人工林にするカラマツはもともと冷涼な気候を好む木です。最近、植物も動物も、昆虫などもどんどん北上してきています。今、植樹している木が育つ50年先の環境がどうなっているのか、行政がそこまで考えているか疑問です。自然というのは変わるものなのだという意識で物事を考えていかないと駄目だと思います。

 

札幌市清田区にある札幌市森林組合の白旗山事務所

2024_11_16 | 11・12月号 2024年 特集 | ,