道内いろいろな牧場を見てきたが、藤井牧場(富良野市・藤井雄一郎社長)は異彩を放っている。地方都市はどこも人口減少で喘いでいるが、藤井牧場は本業の発展に心血を注ぐだけに留まらず「地域社会の全体の活性化に少しでも貢献したい」と果敢に挑戦している。社是は〝開拓者たれ〟なのだが、富良野未来開拓村の建設に挑戦するスピリットは初代から受け継ぐDNAなのだろう、少しの衰えも感じさせない。
初志貫徹で自営農家に農地解放で半減も挫けず
8月8日の富良野の気温30度を優に超す晴天の日、藤井牧場の「120周年記念式典」が現地で開催された。入植した先代・藤井喜一郎から代々引き継がれ、現在の5代目、現社長の藤井雄一郎(写真)へと続く。
藤井雄一郎社長
百年続くそれ自体が凄いことなのだが、藤井牧場の凄さは本業もさることながら、地域連帯の意識の下、若者世代の率先雇用や地元定着に尽力し、さらに地域社会の活性化の一翼を担おうとするその規格外の行動にある。
牧場の歴史を簡単にたどると――。開拓時代、「自営農家になる」の強い決意で小作農として入植した藤井喜一郎は苦難の末、その10年後の1904年、蓄えた資金で10町の農地を手に入れた。「自立した農家になる」の大願を果たした。まさに初志貫徹だ。
戦後、復員した3代目隆雄の時代、せっかく広げてきた農地も農地解放で20町あった農地が半分に。それでも挫けず、少しずつ広げていった。
4代目雄一も現在の5代目も帯広畜産大卒業、雄一郎の妻・睦子(常務職)も同大出身で、いわば畜大一家。スペシャリスト揃いで何とも頼もしい。
4代目の会長・雄一の代に牧場の基盤はできた。飼育法はフリーストール方式、牛がリラックスするサンドセパレーターシステム(砂のベッド)の牛舎。新しいことにも失敗を恐れず、果敢に挑戦する、これぞモットーだ。
藤井牧場の八幡丘ファーム。背景の山は富良野岳
おなかにやさしいA2牛乳が発売開始
「牛乳が苦手」という人は多い。牛乳を飲むとお腹がごろごろする。牛乳に含まれるたんぱく質のうち「ベータカゼイン」が原因と言われ、牛の遺伝子によって「A1型」と「A2型」に分かれる。国内で広く売られている牛乳は「A1型」の牛から搾乳された生乳を使ったものが多い。ならば「A2型」の乳牛から搾乳した生乳のみ使えば問題は解決する。
2020年「日本A2ミルク協会」を富良野の地に立ち上げ、厳密な検査(遺伝子検査・個体登録・輸送や工場の製造過程を審査)を実施、ここで認証されたもののみ「A2牛乳」が製品として並ぶ。3月1日から関西圏、中部圏、関東圏で先行販売された。道内でも道北アークスのうちウェスタンパワー店・川端店・北採都店で販売されている。