前月号に掲載した特集「みんなで使えます 森林環境税」。耳慣れない名称の税金だけに、皆さんがさまざまな疑問を抱いていたようで、読者の方々からのハガキも多数いただきました。皆さんのさらなる疑問にお答えすべく、今回は北海道水産林務部の立原泰道森林計画局長、北海道木材産業協同組合連合会の内田敏博副会長に、詳しいお話を聞いてみました。
北海道水産林務部林務局 森林計画担当局長 立原 泰直 さん
地道な整備必要な人工林
森林環境税は、温室効果ガスの排出削減という目標、そして森林整備などに必要な地方財源を安定的に確保するものです。具体的には、下草刈りや除伐、間伐といった作業によって健全な森林を育てることです。手入れが遅れた森林があると、豪雨などで土砂が流れる可能性もあり、適切な時期に間伐を行い森林内に光を入れて、根をしっかり発達させることが必要です。北海道には今、550万haの森林があり、そのうち150万haは先人が植えてきた人工林です。人工林は植えた後も手をかけて育てていかなければなりません。人目につかない山の中での地道な作業のため、森林にそれだけの手間がかかっていることは一般の方にはあまり知られていませんが、森林のもつ様々なはたらきを発揮させるためにも必要な作業です。
道内ではカラマツやトドマツなどの針葉樹が中心に植えられています。柱など建築材にも適しているのですが、いい木材にするためにも手入れが必要なんです。だからこそ計画的に植えて育てて、伐った資源はしっかりと使って、また伐採のときに得られた木材のお金の一部を山に還元して、新しい苗木を植えていくわけです。
北海道水産林務部林務局森林計画担当局長 立原 泰直 さん
人手不足対策に新技術
道内においても人口減による人手不足は深刻で、限られた人員で森林の整備を行っていくためには、新たな技術を導入した「スマート林業」により、安全で効率的な木材の生産や流通を進めていかなければなりません。
今では、ドローンで森林資源の把握をする取組も始まっています。また、高性能林業機械では木を伐ることができるだけでなく、伐ったときにその木の太さが測れる機能などもついています。北海道では、こうした技術を木材の生産や流通に活かしていくための実証実験を行っています。また、新たな技術や機械を使うための研修や導入支援を行ったり、シンポジウムを開いたりして、市町村が行う森林整備の下支えを行っています。
増えてきた施設の木質化
森林整備とあわせて木材の利用も進める必要があります。林業の盛んな町では、以前から取り組んでいただいていますが、それ以外の市町村でも、公共施設を木質化、木造化する取組が拡がっています。例えば、釧路市は森林もあるし人口も多い市町村ですが、市役所本庁舎に木を使うなど、身近なところに地元の木を使って見せる工夫をいろいろ行っています。
こういった取組は民間にも広がりを見せています。公共施設以外、たとえば商業ビルやホテルのロビーなどでも、木質化が進んできています。
北海道も、木材関連の企業や団体と一緒に、北海道の木を知ってもらい、使ってもらうため、道産木材製品の販路拡大に向けて「HOKKAIDO WOOD」というブランドを平成30年に立ち上げました。木材を利用することで森林整備に繋げるという循環の輪を太くしていくよう動いています。
まずは相談し情報集めて
市町村では森林所有者についての情報を管理しています。売買や相続などで新しい所有者になった方には市町村に届出をしてもらう制度がありますが、手続きや今後の手入れ方法について、ご不明の方も多いと思います。
森林の所有については、道庁には森林海洋環境局成長産業課、地域には森林室普及課という、森林所有者の方の手助けを行っている部署がありますので、お気軽にご相談ください。
また、それぞれの地区の森林組合に相談することも出来ます。一人では山の手入れに費用がかかって大変だという場合には、周囲の人たちと共同でまとめて整備を進めるというやり方もあります。今は環境に優しい木材が注目されていて、お金になる場合も多いので、まずは相談して、情報を集めてください。
北海道木材産業協同組合連合会 副会長 内田 敏博 さん
江戸時代から続いた乱伐
日本は世界的に見ても森林に恵まれた国ですが、江戸時代には徹底して乱伐が進みました。というのも、当時は鉄や塩を生産するにも、森林資源を燃料とするしかなかったからです。田畑の肥料にさえ使っていました。
北海道でも江戸時代の乱伐、明治以降の開拓で森林が減り、戦後の昭和29年に上陸した台風15号、いわゆる「洞爺丸台風」が決定的でした。道内の森林が大量になぎ倒され、林業史上前例のないほどの被害を出しました。
その後、高度経済成長期に入って、国有林や道有林も伐採されていきましたが、この頃からようやく人工林の整備、「伐ったら植える」森林管理の意識が出てきました。
先人の苦労が生み出した豊かな山林
北海道は主として戦後から森林整備に大変な苦労を積み重ねてきました。
長野県からカラマツの苗木を持ってきて、広大な面積に植えたんですが、その過程でネズミの食害を防ぐために火入れを行い、時には人力でものすごく深い溝を掘って造林していたというのですから、信じられない話です。
ですから今、北海道に豊かな山林があるのは、当たり前のことではないんです。先人がこれだけ苦労して植えて育てて森林を守ってきたということを知っておいてほしい。苦労して守ってきた森林資源を上手に使って地域の経済を豊かにするのは、われわれ林業関係者に与えられた課題です。
伐った木の代金だけで苗木を植えて育てられるかというと、全然足りません。もちろん一定の補助金が入っていますが限界がある。まだまだ予算的に足りないところがある。森林というのは、うまく使っていく上でコストがかかるということを理解してほしいんです。
北海道木材産業協同組合連合会副会長 内田 敏博 さん
山の手入れの必要性とは
森林環境税の使い道は各市町村に委ねられていますが、基本的には森林整備や、木材を賢く上手に使っていくことです。住宅への木材利用はなかなか厳しくなっていますが、内装とか、使い方をPRするための使い方というのも考えられていいし、そういうところにも使ってほしいですね。
北海道では森林を伐ったあと9割ぐらいきちんと植えていますが、やはり人口も減っている中で、所有権がはっきりしないとか、自分で持っていることはわかっていても手入れをしないという山が現実にあります。
そういった山を手入れして、災害を誘発しないようにしていかなければならない。そうしたところに環境税の意義があるのではないかと思います。
実際に森林を持っていても、どうしていいかわからない人たちのため、旭川を中心に活動しているNPO法人もりねっと北海道(TEL: 0166‐30-9049、Mail: ask@morinet-h.org)という団
体では、直接話を聞いて、たとえば木を伐る、森で遊ぶ、こんな山にしていく、といった具体的な使い方の提案をしてくれます。
森は都市とも繋がっている
都会の人には関係ないという考え方もあるかもしれませんが、たとえば札幌市は政令指定都市の中で唯一、一度も断水したことがないまちなんです。それは、定山渓の奥に豊かな森林が保たれているから、といっても過言ではありません。森林は日ごろあまり意識されないかもしれませんが、絶対に都市の人も含めて繋がっているんです。
だから森林整備をするということは、日本という森林国で、自分たちの水、空気、そして精神的な安らぎの場として、都市の住民の生活もまちがいなく恩恵を受けていることを意識するきっかけかなと思います。
最近、自然災害が多発していますが、これだけ身近にしっかりした森があると、かなりの程度で洪水や河川の氾濫を食い止めていると思います。 所有者不明の森林とか、手入れされていない森林とかを整備してきちんと元の形にしていくのは、環境税に課された課題だと思います。