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特集記事

2024_03_02 | 2024年 3・4月号 特集 | , , , | 編集部イーハトーブ

再生産につながる適正価格を求む
このままではもう農業はできなくなる

「このまま農業を続けられるのか」、生産者の誰もが一度や二度、考えたことがある。最近の経営環境は想定外の要因(戦争や世界的異常気象)も加わり、ますます農業の経営環境を困難にしている。昨年春、同じ思いを描く生産者や流通業者などが結集し「keepA協議会」が設立されてちょうど一年経った。協議会代表でもある「新篠津つちから農場㈱」の中村好伸社長に取材を敢行した。

取材・文 山田勝芳

安ければいいではどこかが割損を受け

今回は店頭の値段について読者の皆さんと考えてみたい。
「価格が安ければいい」の論法でいったら社会経済は成立しない。同じように企業の経営側から「社員の給料は安ければいい」では社員の生活は困窮して、余裕ある暮らしはできない。
筆者はスーパーに日配品(豆腐など)を入れている会社経営者と会話したとき、「私のところの商品は3掛けでスーパーの買い取りだよ」。100円の豆腐ならば30円で買い取るという意味。筆者は「ムリでしょう、原料費も人件費もこれだと出て来ない」。欠品を出したくないスーパーは毎日大目に仕入しておくのだが、豆腐は日持ちしないから売れ残りは廃棄するロスが発生する。それを見込んでの「3掛けの仕入れ価格」なのだが、これは不合理な価格設定と言わざるを得ない。

ひところ物価の優等生と言われた『玉子』も『バナナ』も〝からくり〟があった。
玉子は去年の出来事だから記憶にあるはず。高病原性鳥インフルエンザの発症で、発生源のニワトリは大量処分されて、急激に鶏卵の供給量が減ったから価格が高騰した。
近頃、価格は落ち着いたが発症前の値段には戻れない。

今度は世界規模で穀物相場が高騰を続け、さらに時代の要請としての賃金アップや、電気料金・輸送コストの上昇が店頭価格を押し上げている。
実は以前にも紙面で「鶏卵から見える日本の〝食〟思想」を取り上げたことがある。鶏卵は実際に国内で95%生産されているが、エネルギー換算で見る食料自給率は10%という低い数字だ。なぜなら鶏に与える餌のほとんどが輸入された穀物に支えられているからだ。輸入穀物が高騰し、円安がさらに追い打ちをかける。かつての物価の優等生の価格帯には戻れない。

 

 

発足に先立ち昨年3月に開催された説明会

 

バナナも安定した価格帯で売られていた。極端に表現すれば、一年中同じ価格で売られていた。業を煮やしたのはバナナ生産国・フィリピンだ。「日本のスーパーは高い値段で売ってほしい」と呼びかけたことを皆さんは覚えていますか?
安い価格帯で売られ、物価の優等生だった。フィリピンの生産者は日本の商社に安く買いたたかれていた。これの解消を直に日本に来て流通業界に呼びかけた。

それ以来、心持ち店頭価格はそれまでよりも高い値段で売られているのはお気づきだろうか? フィリピン現地に行かなければ、生産者の手取りが増えたかどうかはわからないがフェアトレードの視点に立って、バナナを見たいもの。実は中村代表もフェアトレードの思想を持つ。
対米交渉時、日本はかつて自動車や鉄鋼製品の輸出を守るため、牛肉やオレンジの門戸を開いてきた。アメリカからの外圧で国内農業を犠牲にして工業品を守って来た。これでいいわけがない。

本紙キャンペーンで何度も訴えかけた「水よりも安い牛乳の値段」では誰が見ても絶対におかしいのだ。

 

新篠津つちから農場㈱・keepA協議会 中村 好伸 代表

 

適正価格で取引するネットワークづくり

店頭価格は〝再生産につながる適正価格〟でなければならない。今回紹介する「keepA」の理念の根幹はそこにある。生産者も流通も消費者も皆が理解し合える適正価格というものがあるはず。「安全・安心な農産物」を作るにも余分な経費が係るというものだ。モノの価格というものはそういうことではないか。

keepAは今のところ石狩・空知圏の19法人の生産者のほか、流通業者として北雄ラッキー㈱、㈱アイックスホールディングス、ユニバースが参加している。「将来的には日本全国のネットワークを構築したい」とする。発足してまだ一年足らずだが、着実に実績を重ねてほしいものだ。

さて、フェアトレードの思想はコーヒーやカカオに限った話ではない。先に触れたバナナもそうだし、途上国の安い労賃に支えられた縫製品もそうだ。南アフリカのダイヤモンドもしかり。欧州では産出国の児童労働の有無、低賃金労働の有無労働条件などしっかり調べてから輸入している。

フェアトレード思想は貿易上のやり取りに限った話ではない。国内の異業種間取引でも「公正な取引」は当たり前のこと。 今回は適正価格について触れてみた。モノの「価格」に公正な規範がなければならない。

 

新篠津つちから農場の玉ねぎ畑でスタッフ一同

 

●keepA協議会

札幌市中央区南1条西16丁目春野ビル3F(㈱GB産業化設計内)

TEL:011・211・4689

 

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