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特集記事

2018_05_06 | 2018年 5・6月号 農業と向き合う若者たち | , | 編集部イーハトーブ

農業と向き合う若者たち【 最終回 】

今回は仁木町で独立就農して8年になる佐藤大策さんと、平取町のトマト農家の若き後継者である水野弘樹さんを取材した。佐藤さんは、経歴を聞いたら誰もが驚くほど、たいへんユニークな経歴の持ち主だ。水野さんは農家の五代目(分家で四代目)だから百年以上続く農家の跡取りだ。

取材と文/山田 勝芳

只今、通年農業に奮闘中

仁木町 佐藤 大策 さん

小樽生まれの佐藤大策さんは小樽水産高校で栽培漁業を学んだ。普通ならその方面に進路を取るが、佐藤さんは違った。就職したのは建設会社だ。しかし、公共工事がどんどん削られ、建設業の将来性に不安を持った。佐藤ファミリーは奥さんと子ども3人の5人家族だ。「子どもにはこれからもっとお金が要る」。
30歳の時、家族のため転職を決断した。「農業をやる!」と奥さんに告げても「ダメ!」と反対されなかった。佐藤さんは今でも奥さんの〝同意〟に深く感謝している。

 

佐藤大策さん、ハウスのホウレンソウ畑で(3月21日撮影)

 

研修期間を経て、2011年に独立就農し、今年で独立8年。初年度は収支トントン、2年目から黒字へ。畑も3年目借り農地を買い取り、自己所有した。「ゼロからのスタートだったが、今はここまで経営をやって来られた」と佐藤さんは飄々と語るが、記者はそれを聞いて「凄いパワーの人」と素直にそう思った。
外国人実習生のために駅前の建物を宿舎として買い上げた。「人手確保は農村ではどこも大変だから、実習生を大事に処遇しなければならない」と考えた末だ。驚きはこれに留まらなかった。佐藤さんの農場ではミニトマトの生産がメインだが、冬もホウレンソウ(写真)など葉物を栽培している。取材に行った頃はポットに植えられたミニトマトの苗がすくすく育っていた。春にはパプリカ、(ささげ)の収穫だ。佐藤さんの農業はほぼ通年農業だ。雪の多い北海道で、就農8年で畑作の通年雇用を実現させた。
将来の夢を聞くと「法人化して研修生の受け入れをしたい」。将来の展望をしっかりと見据えていた。着実にステップを歩んでいる佐藤さんは365日フルに働く農場オーナー。今年で満40歳の働き盛りだ。

 

百年続く農家の後継者

平取町 水野 弘樹 さん

水野弘樹さんは笑顔が爽やかな好青年で、まだ23歳という若さだ。地元の農業高校卒業後、タキイの専門学校(滋賀県)へ進学、さらにニュージーランドに1年間研修のため留学する。21歳で実家の農業に従事する、いわゆる農家の跡取りだ。
平取といえばトマトの名産地、地域挙げてブランド化に取り組んでいる。近年は道内外でトマト作りは盛んで、産地間競争も激しさを増す。そこで地元JAもグローバルギャップの取得へ向けた勉強会などの取り組みが活発だ。時代は大きく変わり〝適当にやる〟は通用しなくなってきている。

 

水野弘樹さん、トマト畑の前で( 4月11日撮影)

 

水野さんの実家もメインはハウス27棟を使ってのトマト栽培だが、ほかに4町歩で米、トマト収穫後はキュウリ、その後(冬場)はホウレンソウを栽培する通年農業を営んでいる。弘樹さんと両親、加えて中国人研修生ひとりの総勢4人体制だ。
水野家は平取に早くから入植した。本家の息子さんたちは畑を分与され、分家となった。だから弘樹さんは分家としては農家4代目だが、一族で見た場合は5代目ということになる。いわば百年続いている農家ということになるのだろう。
弘樹さんは平取町4Hクラブの会長を務めている。また、北海道農協青年部協議会の役員も兼務する。特異な肩書は青年部活動のひとつ〝純農BOY〟コンテストでグランプリを受賞したこと。この1年間、北海道農業のPR広報に汗を流す。23歳だがどっぷり農業に浸かっている。
「自分が農業をやる40年先を見据え、産地を維持するにはどうしたらいいのか、地域の人たちや青年部の人たち、4Hクラブのメンバーと話し合いをしながらやっていきたい」。若いながらも将来展望を見据える。やる気旺盛な若者がいれば、平取町もきっと栄えるはず。

 

若者よ未来は確実に若者の力で動いていく

「農業と向き合う若者たち」シリーズは、読者の人気コーナーだったが今月号で最終回としたい。
自治体や農協の関係者、読者から取材先情報が寄せられていたが未消化のまま中断するのは正直心苦しいのだが許しを請う。
連載したこの三年間、ゆくくゆく後継者となる若者たち、様々な経歴を持った新規就農者たち、学校で農業を学ぶ学生たち、それぞれとの出会いは感動的であった。「五年後、十年後、彼らはどうなっているか」、原稿を書きながら「その時が来たら再会したい」という思いにいつも駆られていた。紙面に登場したしたみんなが逞しく成長していることを心より願っている。

フリーペーパーの場合、営業性が常に求められる。しかし、営業記事オンリーの紙媒体にはしたくない。相反する課題を内在しながら、記者は「フリーペーパーにして、フリーペーパーにあらず」と反骨精神だけは旺盛だ。

2018_05_06 | 2018年 5・6月号 農業と向き合う若者たち | ,