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特集記事

2018_03_21 | 2018年 3・4月号 特集 | , , , , , | 編集部イーハトーブ

【 鼎談 】子どもとの菜園づくりを食育に活かそう!

野菜価格の高止まりが続いています。今春から趣味と実益を兼ね、家庭菜園に携わる人々がさらに増えそうな気がします。しかし、家庭菜園にはそれ以外に心を豊かにしてくれるものがあります。例えば、子どもと一緒に楽しむことにより、食育にも繋がっていきます。家庭菜園は子どもたちに何をもたらすことができるのか。3氏に語っていただきました。

 

出席者

渡辺農事㈱ 北海道営業所所長  安達 英人さん

サッポロさとらんど副施設長  奥山 誠さん

大谷オアシス保育園園長   辻村 靜子さん

(左)辻村靜子さん( 中)安達英人さん( 右)奥山 誠さん

 

生き物として野菜に接する

 

ーまず、家庭菜園の現状をお聞かせください。

 

安達

菜園づくりはやはりご年配の方々が多い。また、定年年齢が60歳から65歳へと移行することもあり、ご年配の方々が多いという傾向は今後も変わらないでしょう。そんな中で、家庭菜園を始めて、30年とか、40年とかのベテランの方々も増えてきた。ただ、そういう方々が新たに教えを乞うところが地方にはなかなかありません。札幌のサッポロさとらんどには、「さっぽろ農学校」があり、大丈夫なのですが、地方の方々は本当に困っていますね。
作る野菜は、トマト、ナス、ピーマン、キュウリが人気の品目です。これらは、狭い場所でも十分楽しむことができる。一方、ベテランの方々は、一通りのものを作ってしまっているので、最近ではショウガや落花生、ゴーヤのように、これまでの家庭菜園になじみのなかったものを作っています。最近では、ビニールハウスを作ったり、黒いポリマルチを使ったり、資材関係が発達したので家庭でもできるようになりました。特に、ショウガは女性が今、非常に注目しています。よくその作り方を教えてほしいと訊かれますね。

 

ーサッポロさとらんどの概略と、そこではどのような菜園づくりを行っているかお聞かせください。

 

奥山

サッポロさとらんどの正式名称は、「札幌市農業体験交流施設」といいます。農や食の体験をすることが、本来の目的の施設です。平成7年にオープンし、今年で23年目を迎えました。面積は74ヘクタール。札幌ドームの約13倍、東京ドームの約16倍の大きさです。入館者は、年間約70万人ぐらいですが、全員が農や食の体験が目的ではなく、公園としての機能もたくさんありますから、遊びにくる人たちが圧倒的に多い。その中で、約6万人の方々が、農や食の体験を楽しんでいます。

また、施設では、農業に関する研修や講習なども行っています。先程、話が出た、さっぽろ農学校では入門コースとして43の講義を用意し、年間8000円で受講できます。1講義あたり約186円です。農と食に興味のある一般市民の拠点になっています。そして、園芸相談も受け付けていて、年間4000件以上もあります。また、小学校に出張講座に出向いたり、区民センターで農業に関する講義なども行っています。

さらに、施設内では市民農園として、196区画の農園を市民に貸し出しています。体験農園ではいろいろなコースを設けていて、収穫だけを楽しむコースや栽培から収穫まで楽しむコース、さらに、加工までのコースもあります。ぜひ、一度体験して、農や食への関心を高めていただければと思います。

 

サッポロさとらんど

 

–  一方、大谷オアシス保育園では、昔から園児に対して野菜づくりを実践しています。始めたきっかけや、それに対する園児の反応はいかがですか。

 

辻村

当園は、創立64年の歴史がある札幌大谷第2幼稚園に併設された保育園です。平成21年4月に開園しました。幼稚園児が140名、保育園児が71名、併せて211名の子供たちと生活をしています。
野菜づくりのきっかけは、昭和50年ごろの旧幼稚園舎の頃にさかのぼります。その頃から給食を開始しました。当時は自園で給食を行うことはめずらしく、普通はお弁当持参でした。そこで、給食に使うためにたまたま水菜を栽培したことから始まりました。その後、水菜の次に、トマトやキュウリと品種を広げていき、軒下の畑も手狭になり、新しい土地を購入して、「なかよしばたけ」と命名し、園児と一緒に野菜づくりを行っています。
栽培に園児が関わることは非常に大事なことです。園児自身が穫った野菜が味噌汁などに入っていると野菜嫌いな子どもでも食べてくれてる。トマトが苦手な園児でも自分たちが栽培したトマトのほんのごく一片から口にして、「酸っぱい」とか「甘い」とか感じてもらう。そこから「明日はもっと食べてみよう」となり、いつの間にかトマトが大好きになる園児がたくさんでてきました。

 

大谷オアシス保育園

 

奥山

私も栽培に関わることは非常に大事だと思います。当施設の市民農園でも親子で栽培している方々がいる。その方々に聞くと「おかげ様で子どもたちが野菜を食べらるようになりました」という声をたくさん聞きます。栽培にずっと関わっていると、野菜を単に野菜として見るのではなく、生き物として見てしまう。毎日、成長していきますから、愛情を持ち、親近感を持つようになります。そのことが結果的に食するところに繋がっていくような気がしますね。

 

親子での家庭菜園が食育に繋がる

 

ー親子で菜園づくりを行い、食育に繋げていけば、新たな年齢層の開拓になりそうですね。

 

安達

さとらんどの市民農園は大人気で4倍ほどの倍率になっています。他にも分譲農園はありますが、やはり便利な所は倍率が高い。だから、マンションに住んでいる方であれば、まずはベランダでプランターから始めてもいい。そのような所から馴染んでいって、子どもが興味を示した時に、応募してみる。そのような流れで十分だと思います。
先ほどのトマトが好きになる園児の話がありました。普通にスーパーで売っているトマトは、青いうちに収穫します。収穫して、流通に乗りながら色がつき、店頭に並ぶころに、薄いピンク色になる仕組みです。店頭に並んだ時に真っ赤だと、柔らかくなり、すぐ腐ってしまいます。青いうちに収穫したものと自分の菜園で真っ赤になったトマトでは味がまったく違う。親もそのような事を理解すると、菜園づくりがさらに面白くなると思います。もう一つ例を出すと、菜園のピーマンは緑ですが、それを穫らないでいると最後は赤くなります。その赤いピーマンをそのままかじるとすごく甘く美味しい。無理に苦みのある緑のピーマンを食べる必要はないわけです。

 

安達 英人さん

 

辻村

お父さんやお母さんが朝に登園した時、畑がどうなっているか気にかけてくれます。畑の中で私が作業をしていたら声をかけてくれる。だから強い関心をお持ちだと思います。畑の中には、子どもたちが嫌いな野菜ナンバーワンに挙げられるナスやピーマンも栽培しています。赤いピーマンのお話は知らなかったので、参考になりました。園児は、炭火で焼いて醤油をつけて食べています。

 

奥山

基本的に焼くと何でも甘くなる。一番美味しい食べ方に最初から出会わせてあげることはとてもいいことだと思いますね。牛乳の嫌いな人がいる。「腹がゴロゴロなるから」とか、「臭いが嫌だ」と言います。しかし、牛舎でのしぼりたての牛乳なら飲める。なぜなら、しぼりたての牛乳は何も熱処理がされていない、本来の味だからです。我々がスーパーで買う牛乳は殺菌されている。殺菌するとタンパク臭が熱によって変質し、臭いが出る。それで飲めない。しかし、本来の牛乳であれば飲めるという人は結構います。野菜でも本来の美味しい味を体験させることは食育上も大変大事なことですね。

 

どのようにして野菜を美味しく食べるか

 

安達

美味しく食べること。これがまず最初にあります。農林水産省がいっている1日の必要な野菜摂取量は350g。今の日本人は290gぐらいで、年間にすると90キロぐらいしか野菜を食べていません。アメリカ人は120キロぐらい食べている。いつの間にか日本はアメリカに抜かれてしまいました。アメリカでは80年代に医療費が増大し、健康のために国をあげて野菜を食べようということになった。逆に日本では、食が洋風化して、煮物などの和食が減り、野菜の摂取量も減った。これを変えるにはまず野菜を知ることです。そして、本当の美味しい野菜を探すことです。家庭菜園を行う人が増えたリ、野菜直売所が賑わっていることはいいことだと思っています。

 

奥山 誠さん

 

ー確かに札幌近郊の野菜直売所を見ても大盛況です。市民の方々もその辺りのことはわかってきていますね。

 

奥山

直売所ではほとんどが朝に収穫したものを売っています。枝豆やアスパラ、とうもろこしのように、収穫してから消費するまでの時間がかかればかかるほど食味が低下するものは、自分で栽培するか、直売所で買うか、本来の美味しさを味わう方法は、この2通りしかありません。そういうところから入って、美味しいものを食べてもらって、さらに興味を広げていってほしい。

 

安達

若い人が海外旅行でタイなどにいって空芯菜を食べ、もう一度、日本で食べたいと思っても、普通のスーパーには置いてない。しかし、たまに直売所にあったりします。それがまた、直売所に行く楽しみにもなっています。

辻村

直売所の方が、鮮度が良く、品数が多いということが浸透してきましたね。

 

安達

ただ、直売所でもズッキーニやキュウリの山盛りなどは、値段を下げてもなかなか売れません。そこで美味しくたくさん食べることができるレシピの開発が必要です。例えば、キュウリですと、スライスしてサラダや浅漬けとして食べることが多い。しかし、ぶつ切りにして、ごま油で炒め、好みで醤油やラー油で味付けすると、ビールのつまみとして1本、2本はすぐ食べられます。そのようなレシピを知っていれば、いつもは1パック3本買うところを、今日は2パック買っていこうとなる。そして、そのようなレシピを紹介している直売所は、さらにお客様が増えていくと思います。

 

辻村

当園でもキュウリやズッキーニを栽培しています。キュウリはシンプルにお味噌をつけて食べる。ズッキーニはすぐ大きくなるので、食べることと同時に、収穫してその重さも競って楽しんでいますね。

また、2月には昨年穫れた大豆を石うすでひいてきなこづくりをしました。部屋中に大豆の香りが漂って子どもたちはとても喜んでくれました。ミキサーを使えば、すぐにできるのですが、昔はこのようにして手間暇をかけて作ったという物語に子どもたちは強い興味を持ったようです。食を通じて昔の生活を教えることも大事なことと思いますね。

 

辻村 靜子さん

 

どのように食育に活かすのか

 

ー園長の言うように菜園づくりは食育に通じます。どのようなことが大事になっていくのでしょうか。

 

安達

私たちの体は食べたものでできています。だから食べ物に対してはきちんとしたものを食べなければなりません。そのために、食べ物に興味を持たなければなりません。家庭菜園をやることにより、まずは興味を持ってほしいと思います。そして、命をいただいているという意識を持つことです。若い頃は何を食べても元気でしたが、それなりの年齢になると、ますますしっかりとしたものを食べていかなければなりません。

 

奥山

子どもたちには野菜は生き物だと知ってほしい。観察すればするほど面白いことが発見できます。

ジャガイモは土の中の茎の先にイモがなります。いたずらしてその茎を土の外に出すと、イモにはならず、葉になります。一見、根と思われている茎は葉をだすことにより茎であることを証明することができます。

 

子どもと一緒に収穫体験(さとらんど)

 

また、とうもろこしのヒゲの数と粒の数は同じです。1本のヒゲが1粒に繋がっている。500本のヒゲがあれば、500個の粒があります。トマトの葉も、1枚、2枚、3枚と出たら、4枚目では必ず花が咲きます。そのような規則性があります。そのようなことがわかると野菜を単なる食材としてではなく、生き物として捉えることになります。そうなれば、親しみも持ち、関心も高まるはずです。

 

辻村

なぜ教育現場にそのような畑が必要なのかと訊かれることがあります。私はそのような環境の中で子どもたちが生活をすることは、五感を磨き、感受性を豊かにするためにかかせないことと考えています。

 

 

同じキュウリでも表面がツルツルしたものと、トゲトゲしたものを栽培しています。スーパーに売っているものはツルツルしたものだけで、食べたらトゲトゲしたものの方が美味しい。そこでなぜかなと疑問を持って考えてもらう。
また、トマトには黄色い花が咲くのに、なぜ赤い実がなるのか。子どもたちにとっては不思議なことです。畑の中で感じたいろいろな疑問は、五感を磨き、感受性を豊かにすることに貢献し、人の気持ちをおもんぱかる大人になってくれると信じています。

畑の土づくりは職員が行いますが、苗を植えるときは年長児が行います。その時にお水はこの根から飲み、また、葉からは太陽の光をもらい、生きていくことを知らせます。生き物だからみんなが一生懸命に世話をすると大きくなると教えると、愛情を持ち、関心も持ってくれます。菜園づくりは大人になるための大切な一歩だと思っています。

 

奥山

野菜も動物も人間も、栄養状態によって、病気になったり、ならなかったりします。野菜では肥料、動物ではエサ、人間では食事といっていますが、これは多くても少なくても駄目。人間であれば、栄養過多であれば、肥満になったり、病気になったりします。野菜を育てる時には、そのような話をしています。このような事を子どもたちの食育に活かしていくことは必要ですね。

 

収穫時、園児の笑顔が弾けます(オアシス保育園)

 

家庭菜園から食育の輪を広げる

 

安達

私は種のメーカーに勤めていて、開発や生産に関わり、種苗店に卸すのを生業にしています。そんな日々の仕事の中で、もっと野菜を食べてほしいという想いを強くしています。そのためにも子どもの食育は大事ですし、同時に親に対しての食育も必要だと思います。親が理解してそれをどのようにして興味深く子どもに伝えていくか。先ほど、ショウガと落花生の話をさせていただきましたが、それらが生育しているところを見たことのない人は北海道にはたくさんいます。落花生も食べている。ショウガも食べている。しかし、埋まっている姿を見たことがないというのは、逆に興味を持たせるチャンスでもあります。

以前、富良野の小学校で私が指導して、落花生を栽培しました。子どもの親は大部分が農家の方々です。私が学校で落花生を栽培すると言った時、生徒の親たちは、ここでは落花生はできないと言ったそうです。翌年、種まきをしたら、落花生はきちんとできた。それを収穫して、子どもたちが家に持って帰ったら親たちはみんなびっくりしたそうです。それを家族で食べたらとても美味しかったそうです。
興味を持ち、実践する。そして、その美味しさに気付く。そのようにして家庭菜園から食育の輪が広がっていけばいいと思っています。

 

―今日はお忙しい中ありがとうございました。

 

 

渡辺農事㈱北海道営業所

E-mail: adachi@watanabenoji.com

FAX: 011‐577‐3231

 

サッポロさとらんど

札幌市東区丘珠町584‐2

TEL: 011‐787‐0223

 

大谷オアシス保育園

札幌市中央区大通西21丁目3番18号

TEL: 011‐621‐9888

 

 

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