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特集記事

2020_05_04 | 2020年 5・6月号 特集 | , , | 編集部イーハトーブ

林業試験場の役割
森づくりに関する研究開発を行っています
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部

美唄市にある林業試験場は、昭和32年に森づくりの研究を行うために設立されました。
具体的にどのような研究を行っているのでしょうか。広報担当の森下昌典さんにお聞きしました。

北海道の森林・林業を研究から支える

-林業試験場とはどのようなところですか。

森下

林業試験場は、地方独立行政法人北海道立総合研究機構(道総研)の組織のひとつです。道総研は、道民生活の向上と道内産業の振興を目的に、農業、水産、森林、産業技術、環境・地質、建築という幅広い分野の道立研究機関を平成22年に統合して誕生しました。
林業試験場は、行政機関や研究機関、森林所有者、企業・業界などとも連携協力しながら研究を進めていますが、その研究成果は発表会や講師派遣、刊行物の発行などのほか、北海道の林業普及指導員の指導にも使われています。

 

森下 昌典 さん

 

-道内の森林の現状と課題を教えてください。

森下

戦後植林した人工林は今、本格的な利用期を迎えています。この人工林をはじめとする、道内にある多くの森林に持続的に多面的機能を発揮させ、有効活用をしていくためには、計画的な伐採や着実な再造林を進めていく必要があります。そのような現状認識に立って、いろいろな提言ができればと日々研究に取り組んでいます。特に、伐採や造林作業には、人手が必要ですが、高齢化や担い手不足が課題となっています。この課題解決のための大きなテーマが軽労化です。先進技術を活用したスマート林業の導入をさらに促進していかなければならないと思っています。
例えば、ドローンの活用もその一つです。ドローンで人工林上空の写真を撮り、どれくらいの材がとれるかをコンピュータで解析する。山に入って一本一本木を調査するのに比べて、軽労化に大きく貢献することになります。

 

数々の研究成果で業界に貢献

-最近の具体的な研究成果を教えてください。

森下

「クリーンラーチ」という新しい品種を開発し、今その普及に力を入れています。グイマツ精英樹「中標津5号」を母親に、カラマツ精英樹を父親にしてかけ合わせて開発しました。
グイマツからは、野ネズミなどの食害に強く、材密度が高く強度があるところ、そして、カラマツからは成長が早いところを受け継いでいます。
元来カラマツは、ねじれがでやすく、一部建材には使われにくい部分がありましたが、グイマツの影響を受け継ぐことにより、その部分が抑えられます。さらに、通直性にも優れているという形質から、カラマツよりも建材としての利用価値が高いと思われます。また、材密度が高いということは、二酸化炭素の吸収率も高いので、地球温暖化の防止の効果も期待されます。
平成20年に行われた北海道洞爺湖サミットでは、各国首脳たちにクリーンラーチの記念植樹を行っていただきました。 平成18年度から民間の種苗生産者でさし木苗木づくりを開始、平成22年度からは販売を開始しています。
一方、木の成長を阻害する様々な原因の究明も行っています。
最近、道東ではカラマツヤツバキクイムシがカラマツに入って、それが原因と推測される枯死が起こっています。
これまでは山に入って一本一本確認していましたが、こちらもドローンで撮った画像から早期に被害の状況を把握することができないかという研究を行っています。

 

クリーンラーチ

 

災害に強い森づくりをめざす

一昨年の北海道胆振東部地震による崩壊地の調査も行っていると聞きました。

森下

北海道胆振東部地震により厚真町、安平町、むかわ町を中心に広範囲にわたって地滑りが起きました。崩壊地はどのような状態なのか。また、再造林をするためにはどのような方法があるのかを調査研究しています。
まず、ドローンで撮った写真を使い3D画像を作り地形が変わったか、表土の状態はどうなのかを把握する。
そして、その崩壊地で実際に木を植えて育つことがわかれば、再造林の意欲につながっていく。前のような木のある山にしていこうという意欲が湧いてくると思います。
これまでの有珠山の噴火で灰に覆われた場所や炭鉱の開発で荒れた土地での再造林に関する研究を役立てていければと思っています。

-地震や津波のことを考えると、災害に強い森づくりも今後必要になりますね。

森下

保安林には、防風林、防雪林、潮害防備林、飛砂防備林といろいろあります。
最近、道東の方では土ぼこりにより、高速道路や国道が通行止めになりました。木を植えることにより、強風で畑の土や植えた種がとばされるのを防止することができます。また、風を止めることにより、風下の土の温度や気温が低くなるのを抑えられ、作物の成長に良い影響を与えます。さらに、このような防風林は景観上も美しいものです。これも森の多面的な機能の一つとしてPRできればと思います。
一方、北海道東部の太平洋沖では、巨大地震が今後30年以内に起こる確率が7〜40%であると国から発表されました。これにより太平洋沿岸では巨大津波が来ることが予想されます。その対策の一つが海岸防災林を整備して津波減勢、減災を図ることです。
その研究は道東の白糠町と釧路市音別で行っていて、林帯が津波減勢にどのような効果があるかを明らかにしています。
このように木は安全面でも役に立つということをPRできればと思っています。

-今日はお忙しい中ありがとうございました。

 

林業試験場

 

●道総研森林研究本部林業試験場

美唄市光珠内町東山

TEL: 0126・63・4164

 

 

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