GAPって何だろう? 食の安全は食品に関わるあらゆる産業界に求められている必須条件。農業界でも、農産物の安全基準というべき「GAP認証」へ向けた動きが活発だ。今回の取材先は十勝の芽室町にある「株式会社なまら十勝野」(小山勉社長)。記者は「株式会社ゆめ・きた・さぽーと」の大滝昇社労士、廣田陸奥夫税理士(ともにASIAGAP指導員)と一緒に現地取材を敢行した。
文/山田 勝芳
18人の若い生産者が互いに認め合い連携する
はじめは4人の任意団体として活動していたが2016年に13戸の農家(個人経営)が参集し、正式に「㈱なまら十勝野」が設立された。全員が芽室町の若き生産者だ。現在は18人と構成メンバーが増えており、集合写真を見てわかるように家族を含めるとまさに圧巻の大所帯だ。生産者が集って設立した法人としては道内でも大きい部類だ。
「なまら十勝野」の「野」は「や」と読み、十勝平野と野菜をダブらせてイメージしている。まだ設立して4年目だから、「なまら十勝野」ブランドの周知も十勝が中心だが、ゆくゆくは道内全域へ、全国へと、夢は広がる。何故なら、構成メンバーの若さがそれを可能にさせるはずだ。農業の持続性、それは若者たちが絶えず農業の第一線に台頭してくることだ。一塊になることでキャパシティが広がり、可能性も広がるというものだ。
なまら十勝野のメンバー全員集合の写真はまさに圧巻です。
安全な野菜づくりで消費者と向き合う
さて、法人としての特徴は全メンバーが「JGAP認証」の取得することだ。「新加入者は3年以内に取得する」というルールが付いている。現在はJGAP認証の取得は11戸の農家だが、順次GAPを取得する予定だ。会社の取り決めとしてとことん食の安全に責任を持つという意味で〝JGAP認証取得〟が必須条件となってくる。
十勝農業といえば輪作作物の小麦・ビート・馬鈴薯・豆が主流で、これまでは収穫したものをJAに納めれば、それでお役御免だった。つまり、そこに消費者は存在しなかった。
「これからの十勝農業は消費者とも向き合わなければダメだ」と考えた。従来の輪作作物に加えてレタス、ブロッコリー、キャベツ、トマト、カボチャ、ゴボウなど日常よく使われる野菜25種類以上を生産し、「なまら十勝野」のブランド名で出荷・販売する。現在のところ十勝のスーパーや飲食店、時々開催するマルシェが中心。
「コロナで飲食店や学校給食からの注文は減ったけれど、スーパーではいつもぐらいの量は動いた」と、小山社長は語る。
消費者との相互理解を求める「なまら十勝野」、目が離せなくなってきた。
小山 勉 社長
GAP取得に際し労務管理でお手伝いしたい
この2年間、本紙記者と共にGAP農場を訪問させて貰いました。農場や農産物取り扱い施設など、どこも整理整頓が行き届いていて感心しました。オリパラでGAP作物が一躍注目されて、結局延期となってさぞ落胆かと思いきや、生産者の皆さんは思いのほか淡々としていました。
取得に難産している生産者とも遭遇しました。当面は助走期間として、早めの準備がいいと思います。社会保険労務士の立場でいうと、GAP取得時のチェックポイントのうち、人に関わる項目は約25項目、さらに農薬管理も人がするのでそれを含めると相当数になります。教育や労働環境の整備は時間がかかるので、早めの準備をお薦めします。
TPPや日米FTAなど輸入食品が大量に輸入され「食の安全性」の見極めが大事。この点GAP認証の農産物があるのでそれを選択基準としたいです。今後もGAPを消費者に周知させる活動に尽力したい思います。
大滝昇社労士
GAP農家の熱い思いを消費者にもっと伝えたい
とにかく農業が大好きで農家さんのお手伝いをいろいろやってきました。本紙記者と共にGAPの関係先の取材に同行させて貰いました。エピソードを少しばかり話します。
まず、岩見沢農高の取材。生徒さんが実家に帰ったとき、父親に学校で教わったGAPを開陳、後日学校にやってきた父親が先生に嬉しそうに語ったことは「農業を語っている息子が生き生きしていた。農業を語ることがなかった息子の変貌に驚いた」。私はそれを聞いてGAP教育は後継者問題に効果的だと直感しました。今度は生徒の声も聞きたいと思いました。
洞爺湖農協での取材。GAPの団体認証取得のきっかけは、「洞爺湖サミット」時とのこと。当時の組合長の先見性に脱帽、感動しました。
自己流で通してきた従来型農業を、誰でも理解できるGAP方式に転換、軋轢を作らずに事業承継できたアンビシャスファームに感動。今後もGAPの良さを広げたい。
廣田陸奥夫税理士
2021_01_16 | 1・2月号 2021年 GAP認証農場を訪ねて イーハトーブ 連載 | GAP認証, ゆめさぽ, 農業