人口の一極集中を是正する狙いで始まった「地域おこし協力隊」の登用制度。とりわけ北海道は全国一の隊員数を数える。そして、今回クローズアップする胆振管内むかわ町は現在総勢8名の隊員が在籍し、うち4名が繁忙期真只中の「穂別キャンプ場」のサポートスタッフとして奮戦中だ。
取材・文/山田勝芳
むかわ竜と穂別メロンと賢治思想に惹かれた痕跡
むかわ町穂別地区といえば「穂別メロン」や恐竜化石「むかわ竜」で有名だ(正式名はカムイサウルス・ジャポニクス)。
市街地の街路にはクビナガリュウやアンモナイトに模したモニュメントが多数配置されている。化石の本物を鑑賞したい向きはぜひ「穂別博物館」へ。各界で活躍する香山リカさんは〝恐竜化石に魅せられて〟とうとう穂別まで来てしまった。現在、穂別診療所の医師として勤務している。
さらに穂別地区に関する情報を加えるならば、過去に本紙でも取り上げたが、戦後最初の民選村長は宮沢賢治の源泉ともいうべき理想郷「イーハトーヴ」を目指した地がここ穂別地区だ。その名残か、旧国鉄・富内駅周辺(鉄道は廃止)には、宮沢賢治関係の書籍が納められている「イーハトーヴ文庫」や「銀河ステーション駅」、賢治設計の花壇「涙ぐむ眼」がひっそりと佇んでいる。訪ねてみる価値大いにあり。
自然のど真ん中にある穂別キャンプ場へ行こう
ここではむかわ町に採用された4名の〝地域おこし協力隊〟の隊員がキャンプ場のサポートスタッフとして配属されており、キャンパーたちが安全で快適なキャンプ場を楽しめるようにするのが彼らのミッションだ。
天然自然100%の穂別キャンプ場には、宮沢賢治の童話にも頻繁に登場するカワセミやヤマセミにも出会えるかもしれない。穏やかに流れる渓流サヌシュベ川にはやまべの稚魚が生息し、朝の静けさの中、枝にとまって水面を凝視していたカワセミは小魚を捕食する。
キャンプ場の近くに生息する野鳥たちの話をするのは神戸出身の協力隊員3年目の藤川幸士隊員。「早朝、運が良ければカワセミやヤマセミの姿を見られるかもしれない。付近の森には猛禽類のクマタカやクマゲラも生息する」と語る。もちろん、運とタイミングが良くなればお目にかかれない、希少価値の高い野鳥ばかりだ。藤川隊員はもとアウトドア専門店で働いてきたが、「キャンプ場で働きたい」と北海道へ。隊員としては最終年だが、「引き続き北海道に住みたい」と語る。
むかわ町営「穂別キャンプ場」を流れる清流サヌシュベ川のほとりでむかわ町地域おこし協力隊のみなさん。
写真右から佐藤雅人さん、藤川幸士さん、高野真一さん。取材当日(5月12日)は不在だったが、
ほかに板垣太一郎さん(写真・下記参照)もキャンプ場のサポートスタッフの一員だ。
サヌシュベ川は昼間、キャンプにやって来た子どもたちの恰好の水遊び場と化す。穂別キャンプ場は、まさに天然の自然を満喫できるファミリー向けのキャンプ場だ。子どもたちが目を輝かせる甲虫類の王様クワガタムシの宝庫でもある。
夜、数は少ないが川辺のほとりでヘイケボタルに遭遇するかも知れない。そう語るのは札幌出身の佐藤雅人隊員。SNSでキャンプ場の魅力を画像で発信中だ。
ただ今、ホタル復活に向けて幼虫飼育にまっしぐらだ。「いい自然環境をそのまま残したい」、隊員たちは一生懸命ミッションをこなす。
恐竜カムイサウルスに魅せられて、「もっと詳しく知りたい」と、むかわ町にやって来た協力隊員もいる。京都出身の高野真一隊員がそのひと。穂別キャンプ場のサポートスタッフのひとりで今年2年目だ。
取材当日は不在だった協力隊員の板垣太一郎さん。自家焙煎コーヒーがキャンプ場で評判だ。
キャンプ場の清掃に頑張るスタッフもいる
取材当日(5月12日)不在だったのが第4人目の兵庫県出身の板垣太一郎協力隊員で今年2年目だ。前出の3名と同じキャンプ場のサポートスタッフだ。
業務内容はキャンプ場の施設整備と清掃だが、「きれいなキャンプ場ですね」と帰り際のキャンパーたちに声をかけられとき「清掃業務にやりがいを感じる」と語っていた。特に、キャンパーが食べ物をそのままにするとヒグマなどの野生動物を呼び込むことにつながるので速やかに片付けている。
センターハウスでは有料ゴミ袋も販売し、利用者の自主的な清掃を呼び掛けている。これはアウトドアを楽しむための最低限のマナー。
板垣隊員の得意とするものは「自家焙煎コーヒー」、キャンプ場内で今年から販売しているがこれがなかなかの評判なのだ(写真)。軌道に乗れば、「穂別地区のコミュニティに役立つのではないか」と考えるあたり、なかなか意欲的だ。
至近距離にある温泉施設にも触れておきたい。 国道274号線沿いに所在する「穂別キャンプ場」から約2㎞のところに、「樹海温泉はくあ」(同施設も同じ国道沿い)がある。ここを訪れたキャンパーたちにも大人気の天然温泉(カルシウム・ナトリウム・塩化物泉)だ。大浴場のほか露天風呂もある。近くを車で来たドライバーたちも気軽に立ち寄る。
穂別キャンプ場内のテント群。
キャンプ場のバンガロー。ツリーハウスも用意されている。
胆振東部地震から5年元気になったむかわ町
穂別キャンプ場とそこでサポートスタッフとして働く4名の、個性あふれる協力隊員を紹介してきた。今年は「胆振東部地震」から5年、復興し元気な日常にすっかり戻った。マチの元気づくりに協力隊の頑張りも欠かせない。北海道は各地とも地域おこし協力隊への採用は活発で、数としては全国一だ。3年満了後も引き続きマチに留まる元隊員たちもいる。移住・定住を願うのはむかわ町も他の町村も同じだ。
●問い合わせ先
むかわ町穂別2番地1むかわ町穂別総合支所 経済恐竜ワールド戦略室
TEL:0145・45・2118