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特集記事

2024_01_30 | 1・2月号 2024年 特集 | , , , | 編集部イーハトーブ

【2024年 新春 特別対談】食料の安全保障を語る
JA北海道中央会 代表理事会長 樽井 功氏
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公益社団法人 札幌消費者協会会長 髙田 安春氏

世界情勢の激変(戦争や内乱)、さらに、異常気象や気候変動による作物の不均衡が生じると、食料自給率の低い日本はたちまち需給バランスが崩れて価格高騰や品薄状態に陥る。一番困るのは最終ユーザーの日本国民だ。ロシアによるウクライナ侵攻により、資源小国の日本は石油市場や肥料の供給不安も生じて価格は高騰した。国民の生命を守る食料安全保障を早急に確立しなければ、国民の安全・安心な生活は守れない。農業界トップと消費者団体トップとの対談を緊急セットし、食料安保について討議してもらった。

 

進行・構成/山田勝芳

消費者と生産者双方の理解と利益につながる

ー消費者と生産者が相互理解を深めるため、これまでどんな取り組みをされていましたか。

樽井 JAグループ北海道も過去から様々な広報媒体、活動を通じて消費者へ農業、農畜産物、生産現場の情報発信を行ってきました。しかしながら、それらの活動が食料自給率の向上や認知度向上などに対して必ずしも満足いく結果につながっていないと認識しています。昨今の社会情勢を鑑みると、消費者の皆さまに対して今まで以上に食料安全保障を強化する必要性や、農業、国産・北海道産農畜産物の重要性などについて、われわれJAグループから情報発信していくことが必要だと感じています。
われわれは安全・安心な国産農畜産物をこれからも作り続け、供給していきますので消費者のみなさまは今まで以上に国産・北海道産の農畜産物を選択してもらうことが大切だと考えています。

 

公益社団法人札幌消費者協会 髙田 安春 会長

 

髙田 消費者協会の考え方はSDGsへの取り組みもあり「適正価格で安心できるもの」を求めています。消費者は主にスーパーなどで購入しますが、大概は産地と価格を気にする程度であり、また、スーパーでも細かい説明まではできません。野菜直販所や米通販など農家と顔の見える関係はできてはいますが、その割合は小さいです。有機、減農薬、自然栽培など質の高い食品に対する関心は高いですね。

生産者と消費者、どちらも思いはあり関心もありますが、産地と大消費地が離れており、お互いに見えないのが現状です。JAグループ北海道の「あぐり王国北海道NEXT」や全中の乃木坂を起用したポスターなど目にする機会があり、イメージアップには成功していると思いますが、もっと消費者とつなぐ努力が相互に必要で、農家が実際にやっている努力をPRし、JAブランドを確立するためにJAの果たすべき役割は大きいと思いますね。それが生産者と消費者双方の理解と利益につながると思います。

 

JA北海道中央会樽井 功 代表理事会長

 

国産率を意識した食生活飼料国産化へ着実に前進

ー弊社は食材の国産率を高めるため、家庭の場では「食卓革命」、中食・外食では「厨房革命」を呼びかけています。国産率を高めるため討議されたことはありますか。

樽井 わが国の食料自給率はカロリーベースで38%と先進国中で最低となっています。しかしながら、北海道の食料自給率は223%となっていて、世界一のカナダと同等の水準にあります。これは年間1000万人以上の食料を生産・供給していることになります。われわれとしては国民・道民の皆さまに安全・安心な北海道の農畜産物を安定供給していくことが北海道農業の使命と認識し、生産基盤、生産力を維持・拡大していくためにJAグループ一丸となって取り組んでいます。

しかし、国産率、自給率の向上は生産現場の努力だけでは実現できません。われわれが生産したモノを消費者、事業者の皆さまに買っていただき食べていただいて初めて実現できるものです。ですから、消費者・事業者の皆さまに北海道産農畜産物、農業に対する理解を深めていただくことが必要だという考えの下、3年に1度開催される「JA北海道大会」では『北海道550万人とともにつくる「力強い農業」と「豊かな魅力ある農村」』をメインスローガンに掲げ、「550万人サポーターづくり」などに取り組んできました。

髙田 「さっぽろとれたてっこ野菜料理講習会」「札幌ポトフの会の自主料理研究」等で地産地消運動を展開しています。また、食品ロスに関する講座を開いて、規格外野菜の利用促進、自宅での野菜廃棄・未活用部分の活用(例えばカボチャのタネのスイーツ、カボチャのワタのスープ)、賞味期限切れ間近な防災食品の活用を呼び掛けています。

また、SDGsの一部分として学校向けにエシカル消費(環境配慮・食品ロス・フェアトレードなど)の派遣講座を開いています。

 

ー飼料の国産化の取り組みはどうですか。
樽井 北海道は他府県と比べて草地面積が大きいので粗飼料の確保はある程度できていますが、主にコーンを原料とする配合飼料は輸入に依存している状況にあります。積算気温の影響から生産可能な地域がある程度限定されるなど課題も多々ありますが、子実用トウモロコシの作付面積を拡大していくことや、デントコーンなどの国産飼料の生産向上に今まで以上に取り組んでいくことで、海外依存度を少しずつ引き下げ、飼料自給率を向上させていくことが必要だと考えており、生産現場の変容を促しています。

 

ー消費者から見て店頭価格が安いことは嬉しいですが再生産、事業継続につながる価格でなければなりません。消費者協会は「価格研究」みたいなことをされていますか。

髙田 札幌市の受託事業で価格調査を月1度行っていてこれは札幌市のホームページで掲載されています。SDGsのなかにエシカル(倫理的・道徳的)消費というものがあり、商品を選ぶとき機能や価格だけではなく生産過程で誰かが苦しんでいることはないか、無駄は出ていないかなどを考えるように啓発しています。実際、消費者へのアンケートでも価格と並びルールに基づきつくられた安全・安心な食品、加えて「産地」も重要な選択肢にあげられています。

物価高で生活は苦しいが、生産者が持続可能な生産ができるように買い支えるのも消費者の役割です。近所で買い物をしないと店が成り立たなくなる、北海道の農産物を買わないと北海道で作れなくなることは消費者も経験的に知っています。

 

食料の安保の観点から鉄道存続は必要不可欠

ー玉ねぎや馬鈴薯などの農産物は鉄道貨物で全国へ運んでいます。食の安全保障の観点から、「赤字路線廃止と貨物維持」「新幹線開通時の在来線廃止と貨物維持」の是非を語ってください。

樽井 北海道は食料供給基地として首都圏はじめとして全国各地に農畜産物を供給しています。一方、北海道は本州と陸路でつながっておらず、また、北海道自体も広大であり、物流の制約を受ける地域でもあります。こうした中、JR貨物、トラック・フェリー、海上コンテナを使い分けて道外へ出荷しています。

こうした中、北海道農業にとって重要な物流に関して、大きな課題があります。物流問題は大きく2つの課題があり、一つはトラック運転手の2024年問題、もうひとつは貨物鉄道輸送の問題です。国民に農畜産物を安定供給することは食料安全保障の強化のためにも必要不可欠であり、そのためには物流問題の解決が極めて重要です。

われわれJAグループ北海道としては引き続き、産地と消費地の協力を得ながら輸送力の確保に向けて物流の効率化と改善に努めていきますが物流問題は国民・道民全体の問題であると考えます。政府や北海道に対し、「鉄道の維持を基本とした流通体制の構築」のうえ、他の輸送手段を含めた万全な物流体制の構築へ向けて、関係団体と連携して働きかけていきたい。
また、JR北海道が単独では維持困難とする8線区(赤字線区)には、貨物列車が走行する3線区が含まれており、石北線もその一つです。

赤字路線廃止も、物流ネットワークの寸断につながりかねないので、国交省の監督命令を受けて現在、JR北海道が進める経営改善に向けた取り組みを注視していきたいと考えています。

 

髙田 石北線については食料安全保障の観点からも重要な路線であり、沿線のみならず北海道全体としても存続・維持に向けて、総力を結集すべきものと思っております。しかしながら、JRは単独では路線維持が困難な線区として公表しており、高い営業係数と輸送密度の低さから厳しい状況下にあることも実態です。

赤字路線の廃止に該当した場合、貨物線単独としての存続は極めて困難になるものと予測されます。令和5年10月11日にJR貨物はコストの上昇を受け、運賃の値上げを検討しています。
私も十勝に存在した「ふるさと銀河線」の廃止協議に携わり、鉄道存続の難しさは身を持って体験したことがあります。
廃止となった場合の農産物輸送は、旭川もしくは札幌までトラック輸送するか、近隣港からの貨物船や各空港のエアカーゴの利用が考えられますが、いずれも施設の整備充実が必須ですし輸送量、輸送費用の課題も大きい。やはり、食料安全保障の点からも鉄道の存続は必要不可欠と考えます。

 

食料生産の砦は北海道だ食料安保は全員で共有

ーそれぞれの機関で「食料安保」をどのように捉えられていますか。

樽井 昨今の世界情勢は異常気象による自然災害や、ロシア・ウクライナ戦争、パレスチナ・イスラエル紛争などかつてない危機に直面しています。食料だけではなく飼料や肥料なども今までのように何でも海外から安いものを輸入できる時代は終わったと認識しなければなりません。まさに今はすべての分野で大転換期を迎えています。

今こそ、食料安全保障が国家の喫緊の最重要課題であるという認識に立たなければなりません。「食料・農業・農村基本法」の検証・見直しや、農業政策全般の見直しに取り掛からなければなりません。われわれの北海道農業の確立に向けた展開方法を実現するためにも、基本政策の確立が必要と考え、われわれJAグループ北海道は運動展開を図っていきます。
現在のこの大転換期をチャンスととらえ、わが国最大の食料供給基地を担うJAグループ北海道、そして、生産者ひとりひとりが国民に安全・安心な農畜産物を安定供給するという自覚と誇りを胸に、これからも真摯に農業生産に取り組んでいきたいと考えます。持続可能な北海道農業を確立することこそが、日本の食料安全保障の強化に直結すると確信しております。

 

髙田 日本の食料自給率は昭和35年の79%から大きく低下し、令和4年は38%となっています。ウクライナ、ロシアとの戦争をはじめ、世界各地で紛争が勃発、さらに円安が追い打ちをかけ、食料の安全保障は喫緊の課題と考えます。この状況の対応のひとつとして政府は民間事業者に対し「食料危機時の生産計画」の作成を求める方針を明らかにしております。
北海道は国内有数の食料生産基地で、有事の際は食料供給の中心地になると考えます。

道産品のルールに基づいた安全・安心で美味しい優れた品質情報を発信し続けるとともに、生産者が持続可能な基盤体制の強化や安定した生産体制の維持が、食料安全保障につながると考えます。これを注視しつつ、消費者団体としても積極的に応援したいと思います。

 

ー本日はどうもありがとうございました。

 

写真左側 髙田 安春 会長 写真右側 樽井 功 会長

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