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特集記事

2024_09_15 | 2024年 9・10月号 巻頭記事 | , , | 編集部イーハトーブ

「自由」と挑戦 海上自衛官から就農
第2の人生 むかわ町で「収穫」

他業種からの就農者は、新しい人生を踏み出す魅力的なドラマがある。むかわ町で農業を営む宮川正太郎さん(45)。海上自衛官から同町で独立就農を果たした経歴を持つ。安定的なキャリアを手放したその背景には、農業に対する情熱と地域への感謝があった。

父の思いを自らの手で

札幌市出身。米国カリフォルニア州短期大学を卒業後、ハワイ州オワフ島で日本食のアルバイト経験を有する。海上自衛官時代に農業を志した。偶然目にしたのが、本州の農業生産法人の特集番組。映し出される農業者の髪型、服装、表情。どれも自由さを感じた。生きいきと輝いていた。

自衛官としては誇りとやりがいを感じていた。ただ、「父親が病気だと知らされていた」ことなど「モヤモヤ」した気持ちをぬぐい切れず退官を決意した。同時期の気持ちと呼応するように、父親の農業への思いを知った。「志を果たせず62歳で亡くなった父のことが頭の中で結びついて、北海道に帰って就農しようという決意になりました」。

ターニングポイントとなった。

 

ハウス内で丹精したトマトの収穫に取り組む宮川さん =むかわ町豊城のほ場内ハウス=

 

心機一転 むかわ町での一歩

むかわ町は、南北に一級河川・鵡川が縦走する。日本屈指の恐竜化石として有名な「むかわ竜」といった化石資源のほか、「鵡川ししゃも」の知名度は高い。一方、基幹産業の農業は稲作を中心に発展してきた歴史がある。現在も温暖な気候と通年でのビニールハウスによる施設野菜を栽培できる特徴を生かし、約20種類の多品種生産を誇る生産地でもある。

決断した宮川さんの行動は早かった。2008年(平成20年)1月に北海道担い手育成センター(札幌市)に相談。同センターからむかわ町を紹介され、同年4月に町内のハウスや選別所を見学するなど気持ちを高めた。

 

華麗な転身 受入協議会長として活躍感謝胸に経験を還元

海自退官後は、小坂農園(小坂幸司代表)=同町花岡=で2年間の長期農業体験を実施。さらに経験を積むため鵡川研修農場=同町豊城=で1年7か月にわたり、トマトとレタスの栽培技術を習得。営農の「形」を学び11年11月に母・京子さんとともに独立した。
「(農業は)辛いとは感じませんでした。自分の判断で休み休み(農業が)できますし、誰かに命じられて作るわけでもない。自由にやっているので体力的にはともかく、精神的な辛さはなかったですね」とさわやかな表情を見せる。

独立就農後に妻・望さんと出会いさらに生産に熱が入った。現在、同町豊城地区で独立就農時9棟だったハウスを15棟まで増棟させるなど、経営規模を拡大させている。

 

広い農地に整然と立ち並ぶ15棟のハウス

 

土づくりは野菜づくり

自分の考えで取り組める自由な仕事―。宮川さんは農業の魅力をこう語る。生産までの途中のプロセスに制約はない。土地や地域特性を生かせる。生産者一人ひとりに見合う仕事。こだわれば無限に可能性が広がる。
「土に一番良いことをしたい」と宮川さん。持ち前の探究心で土と向き合う日々。「一番難しいのは土を休ませることができないこと」。農作業の効率や労力、手間の問題のほか、天候など悩みは尽きない。トマトとレタスの二毛作でハウス栽培を行うため、土づくりの重要性を肌で感じている。丹精した分だけ質の高い野菜が誕生する。
「結局、土づくりです。化学肥料ではなく、有機物を入れることにこだわります。近くの肉牛農家さんから堆肥を購入しています。草や葉など植物由来の肥料も混ぜています。土に良いことをしても、完全に良い作物が出来るとは限らないです」

 

選別を終えた自慢のトマトを手に「まず体験してみてほしい」と呼び掛ける宮川さん

 

通年栽培の強みを生かして

宮川さんは、農業者で組織し長期農業体験者の調整などを行う「むかわ町新規就農等受入協議会」の会長を務める。自身の経験をもとに「アドバイスができれば」と力を込め、新たにむかわの地で農業を始めてくれる人を待ち望んでいる。
農業者は経営者と同義語といえる。平均経営規模は上がっており、マネジメント高度化や設備化も進む。「農業を理屈で考えることも重要ですが、最初からそれを守るだけでは反発されてしまう僕は農業のことを何も分からない状態で飛び込んだので、周りの人たちからすごくかわいがられました」。これまで支えてくれた全ての人への感謝の気持ちを忘れない。
これまで、むかわ町地域担い手育成センターでは、新たに農業を実施したい場合の相談体制を整備。これまで宮川さんも含め、13組が新規就農を果たすなど実績も抜群だ。町やJAむかわ、生産者などと連携し、新たな担い手確保を目指している。25年度からは農業を行う地域おこし協力隊員を募る計画。担当の蛯沢光晴さん=町職員=は「恵まれた場所と環境だからこそできるイメージに合った農業をむかわの地で」と呼び掛けている。

先駆者の一人の宮川さんはこう強調する。
「結局は本人のやる気。本気で農業をやりたい人は、まず農業が自分に合うか、やる気が地域に合うかを知ることです。できるのだろうかと不安でしょうが、まずは飛び込んでみてください」

問い合わせは「むかわ町地域担い手育成センター」(町文京2、電話0145・42・5588番)

またはeメールアドレス(mukawa-ninaite@theia.ocn.ne.jp)まで。

みずみずしさを保ったまま収穫される宮川さん自慢のトマト

 

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