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特集記事

2019_05_01 | 2019年 5・6月号 特集 | , , | 編集部イーハトーブ

林産試験場の役割
木材を活用した循環型社会をめざして
【地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部】

旭川にある林産試験場は、昭和25年に道内木材産業の支援のため設立されました。以来一貫して、林産物の高度な利用に向けた研究開発と成果の普及に取り組んでいます。具体的にどのような研究を行ない、木材産業の発展に寄与しているのか。広報担当の阿部哲也さんにお聞きしました。

来年70周年を迎える林産試験場

林産試験場の設立は昭和25年。来年で設立70周年を迎えます。当初は旭川市緑町に「北海道立林業指導所」として開設。同39年には「北海道立林産試験場」に改称され、同61年には現在の西神楽に移転されました。そして、平成22年には地方独立行政法人北海道立総合研究機構(道総研)が設立され、森林研究本部「林産試験場」となりました。
道総研には、農業や水産などにかかわる22の研究機関があります。林業に関する研究を行っているのが、ここ林産試験場と美唄にある林業試験場になります。
森づくりそのものに関する研究を行うのが林業試験場、森林から産出される木材の利用を研究するのが林産試験場となっています。

 

阿部 哲也さん

 

林産試験場のはたす役割

「スタッフは全員で84名います。研究員が59名、研究員を補助する職員が10名、残りの職員は道から派遣された職員となっています。西神楽へ移転した頃は、160名ぐらいの大所帯でした。しかし、道の財政難により、職員も減っていきました」と広報担当の阿部哲也さん。ただ、ここ数年は林産試験場にも明るい兆しが見え、若い研究員が増えています。
「今、道内では戦後に植えたカラマツやトドマツなどの人工林の主伐期を迎えています。厳密に言うとそのピーク時は少し越えました。伐った木材をどのように活用していけばいいのか。
また、木に対する消費者意識も変化してきました。壊れた家具は、工業製品のようにすぐ廃棄するのではなく、直して使うという意識が顕著になってきました。そして、地元の木材は地元で使うという地材地消の意識も高くなってきました」と阿部さん。
同試験場の果たす役割は、今後ますます重要になる時期を迎えています。

 

新たな乾燥技術「コアドライ」と直交集成板「CLT」の研究と普及

同試験場で研究開発された代表的なもので「コアドライ」があります。
「コアドライ」は、カラマツの住宅利用を加速するための乾燥技術で、一昨年に建て替えられた当麻町役場にも使われました。カラマツはクセのある木材で、製材にするとねじれたり、割れたりするので本来は建築材には向きません。ただ、成長が早く強度があるので炭鉱の坑木などに使われていました。炭鉱の閉山が相次ぎ、坑木に変わる使い方が模索された時、その強度を利用した建築材としての使途が考えられました。しかし、実際に使ってみると、評判は芳しくない。なんとかならないかということで研究が始まり、完成したのが「コアドライ」です。新たな乾燥技術で、割れやねじれを極力抑えることが可能になりました。
その他、CLT(Cross Laminated Timber)は挽き板の繊維方向を直交するように張り合わせた建築材料で、高い寸法安定性や強度が得られることから将来的には大型施設や中層建築物で利用できるよう研究と普及啓発に努めています。また、カラマツは樹心付近より樹皮に近い外側(辺材部)の方が材質的に強度があることから、その部分から板を挽いて集成材に加工する、もしくは単板に剥いて張り合わせることによる強度の高い製品の開発も行っています。

 

トドマツやシラカバ、ダケカンバの研究開発

トドマツはカラマツに比べると柔らかい木材です。建築としても屋根裏に使う「野地板」(のじいた)やヌキ・垂木など使う部分が限定されます。
そんな現状の中でトドマツの内装材利用を目指し、同試験場では、「トドマツの圧縮木材」の研究を進めています。表面を180℃ぐらいの温度で熱し、柔らかくなったところで圧縮成型すると表面が固い材になります。主にフローリングとして利用され、道庁本館の1階ロビーや南富良野町の保育園などで実証展示されています。
その一方では、広葉樹の研究を進めており、シラカバは、強度もあり、色味もきれいなので、家具の部材としての研究が進んでいますし、他の用途としては、フローリングや腰壁、エレキギターのボディなどいろいろな製品開発を行っています。

 

林産試験場(3月18日撮影)

 

きのこの生産は農業ではなく林業なのです

きのこの生産は、農業ではなく林業です。きのこ生産は元々、原木(丸太)に菌を打って、きのこ生産を行っていましたが、近年は高齢化と取り扱いの不便さから木材をおが粉にして栄養分を混ぜたものに菌を生やす菌床栽培が主流となっています。
昔の研究では収穫を多くする研究が行われていたのですが、近年、大手メーカーや輸入品などの安価な製品が大量に流通するようになったことから、生産者が量と価格で勝負するのは、難しいと考え、食べておいしく、体に良い品種の研究開発にシフトしました。
そこで開発したのがマイタケ品種「大雪華の舞1号」です。この品種はインフルエンザワクチンの効果を上げたり、風邪の諸症状を緩和する機能が確認されています。品種登録もしています。
タモギタケは、南幌町の企業と一緒に開発しました。肌を健康にするなど体に良い栄養素が多く含まれています。他に、ブナシメジやエノキタケなどの研究開発を行っています。
「今日、環境問題の顕在化や森林・林業に対する社会的ニーズの多様化など、研究をめぐる背景は大きく変化しています。このような状況の中、木材産業の発展と道民生活の向上を目指して、さらなる実用的研究を進めていきます」と最後に阿部さんは話してくれました。

 

道総研森林研究本部林産試験場

旭川市西神楽1線10号

TEL: 0166・75・4237

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