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特集記事

2024_07_05 | 2024年 7・8月号 巻頭記事 | , | 編集部イーハトーブ

食材費高騰で岐路に立つ学校給食 国は給食インフラを早急に着手すべき

現状の給食費では高値止まりの食材に対応できないといわれている。その結果、ひとり当たりの分量も摂取カロリーも見劣ってしまう。成長期の子どもたちのために給食の分量・カロリーは確保したい。先ごろ「改正子ども・子育て支援法」が成立したことでもあり、国家事業として給食インフラを整備すべしと考える。

無償化の流れを止めるな

地方都市は人口減少・少子高齢化が進み、自治体はその対策に奔走する。国全体がその傾向だからどこの自治体も「人口減少を食い止めよう」と必死になって少子化対策をするが地方の限界もある。
保育園や学童保育の施設整備や学校給食の無償化に舵をきる。因みに2023年9月現在、全国1794自治体のうち3割の547自治体(道内は54自治体)が給食の完全無償化を実施する。新型コロナウイルス対策として、国は地方創生臨時交付金1億円を自治体に交付したが、それを給食無償化の財源に充てた自治体が多かった。今後継続するためには自主財源の工面が課題となる。
また、子どもにかかる医療費負担(高校生まで)を全額補助にしている自治体もある。高校が所在しない自治体では、高校生に通学費助成を実施する自治体もある。それだけ、人口減少が加速する地方にとって子どもは地域の宝のような存在だ。
日高線の廃止に伴い、不便な通学を我慢するより、子どものため引っ越しを選択する住民もいたくらいだ。子育て環境、教育環境は居住地選択の大きな決め手になる。

廃校を阻止すべく「農漁村留学」に力を注ぐ自治体もあった。今でも全寮制芸術学科で全国から生徒が入学してくる音威子府村、離島留学を目玉にする奥尻町が特に目立っている。どこのマチであっても児童・生徒減による廃校を食い止めるため必死さの表れだ。
今、学校給食の食材費の高騰で、給食の現場は岐路に立たされている。

 

冒頭で指摘したように、摂取量、カロリーともに見劣ってしまう。先ごろ「改正子ども・子育て支援法」が成立したこともあり、政府は国家事業として給食インフラを早急に整備すべきと考える。昨年、コロナと材料費高騰で給食業者が破産し、給食の提供ができなくなった自治体もあった。物価高騰に四苦八苦している家庭もある。給食の全面無償化を国としてやる時期に来ているのではないか。

「子ども食堂」の運営も民間活動に任せきりだが、公的な助成も当然考えなくてはならないはず。円安と物価高騰であらゆる分野でコスト上昇し、民間のボランテイア活動も制約を受ける時代になった。国の出番は今だ。

 

学校給食を地域で守る

各自治体の教育委員会の「給食用食材選定基準」を見ると、おおむね同じ内容になっている。

遺伝子組み換え食品は使用しないこと、食品添加物はできるだけ使用していないものを選ぶこと、食肉類や魚介類は納入業者から産地情報の提供を受け、安全性が確認された物のみ使用すること、生鮮品(野菜・肉・卵)選びの基本は第一に「地元産」、次に「北海道産」、その次に「国産」と選択することと規定する。国産率はほぼ100%だ。
〝給食にデザート〟は子どもたちの関心度が高く注目されるメニューだ。しかし、ここでは外国産の比重が少し高くなる。バナナやパインナップル、キュウイ、オレンジあたりが外国産か。私たちの身の回りには四季を通じて外国産が実に多い。フルシーズンで国産フルーツは出回っていないし、また高価すぎてもダメ。

バナナ、キュウイフルーツ、オレンジは一年中売り場に置かれている。こればかりは仕方ない。フルーツの売り場では円安の〝現実〟を垣間見る。

特筆すべきは地域社会に密着する農協の存在だ。

食材の提供はもちろん、小学生の農業体験の受入れ、出前授業など食育に一生懸命で地域協働で子どもたちを育む活動は素晴らしいの一語に尽きる。

 

道内各JAでは小学生高学年の農業体験の受け入れも積極的だ(写真はJAきたそらち)

 

道内各地の農協の多くが学校給食のために地元野菜やコメなどの提供をしているが、食材費高騰の折、学校給食の現場は大助かりのはず。

 

北空知広域農協連が実施する学校給食米の贈呈式。写真左から、岩田清正JAきたそらち組合長、田中昌幸深川市長、黒田洋一JA北いぶき組合長

 

学校給食で地域還元

「学校給食の食材提供」で検索すると、道内各地の農協がヒットする。次に民間企業の食材提供を検索すると、それがなかなか出て来ない。やっと見つけた道内の民間会社があった。〝松尾ジンギスカン〟で親しまれている「株式会社マツオ」(本社・滝川市、松尾吉洋社長)だ。創業は1956(昭和31)年、ジンギスカン業界の第一人者だ。
中空知全域(滝川市・赤平市・砂川市・芦別市・歌志内市の5市、新十津川町・雨竜町・奈井江町・上砂川町・浦臼町の5町)の小中学校の給食に特上ラム肉を提供している。因みに昨年度は児童・生徒5629名へ特上ラムジンギスカン1076㎏が提供された。2015年から始められていて今年で9年目(ただし2020年はコロナ禍で中止)、給食時間の子どもたちの顔が目に浮かぶ。

今は円安も加速し、物価高騰の真只中にあり、どんな企業でも本当は辛いはずでマツオも同じだ。

 

株式会社マツオでは2015年から中空知圏5市5町へ、給食用食材として特上ラムジンギスカンを提供している。写真左から松尾吉洋社長、谷口秀樹新十津川町長

 

「地域に支えられてここまで来られたのだから、感謝の気持ちを込めて学校給食の食材提供を続けたい」と松尾吉洋社長は語る。

想えば日本のめん羊飼育は明治初頭のお雇い外国人、エドウィン・ダンが持ち込んだ百頭のめん羊飼育から始まった。羊毛採取が目的だったが、戦後は豪州産羊毛に押され、やがて化学繊維にとって代わった。

戦前はめん羊百万頭計画もあったのだが、戦後は下火になり、それから羊肉として食されるサフォーク種に代わる。
北海道遺産にも認定され、ジンギスカンは道民のソウルフードと位置付けられている。

文/山田勝芳

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